「竹の大砲(終)」(2026年01月31日) ボゴール県のチクルッとチハンジャワルの二部落がカーバイト大砲59門を並べて200 6年11月4〜5日の二日間、午前9時から17時までお祭り騒ぎを楽しんだ。この祭り が最後に行われたのは2001年で、実に5年ぶりのお祭りだったそうだ。二つの部落は 谷間に横たわる水田をはさんで対面する山腹にあり、距離は1キロくらい離れている。巨 大な木製の大砲が互いの部落に砲門を向けて並べられたから、あたかも戦争をしているよ うに見えた。チクルッ部落側が並べた大砲は28門あり、チハンジャワル部落側は31門 を並べた。 この地方で巨大な丸太の大砲はkuluwungと呼ばれている。この祭りのためにチクルッ部落 は大人衆が総出でクルウンを三日三晩かけて作った。それらの大砲のひとつひとつは砲撃 場所まで40人がかりで運び上げたそうだ。肥料会社PT Pupuk Kujangもこの祭りを協賛 し、超大型の大砲を作って参加した。クジャン社の大砲はカプッの木が使われ、直径およ そ80センチ、長さ7メートル弱で、最大砲のひとつという賛辞が与えられた。その大砲 はトラックで砲撃場所まで運ばれた。 しかし、チハンジャワル側は秘密兵器を用意していた。直径50センチのドラム缶を3個 つないだ大砲だ。さすがに、その大音響にかなうクルウンは他になかった。カーバイトの 消費量も大きく、一回の発射に1.5キロのカーバイトが使われた。木製クルウンなら一 回撃つのに250から500グラム使えば十分。 チハンジャワル部落はこのお祭りのためにカーバイトを1トン購入したそうだ。小売り品 を買うとキログラム当たり1.2万ルピアだが、卸売り業者からだとキロ8千ルピアで購 入できたそうだ。それぞれの部落はこの祭りのためにひとつは2千万ルピア、もうひとつ は4千万ルピアを支出した。 祭りが終わったあと、大音響の衝撃波によって家屋が傷んだ家が必ず出る。部落の祭りな のだからその補償は部落がする。その金額は上の費用に含まれていない。それは催事が終 わらなければいくらになるかわからないのだから。 クルウンのひとつひとつを発射するために班が編成された。班のメンバーはそれぞれが仕 事を分担する。カーバイトを割る作業、水とカーバイトを砲身に入れる作業、点火棒に火 を付けたり消したりする作業、点火棒で火薬に点火する作業、太鼓を叩き歓声を上げてジ ョゲッするお囃子仕事、小さい子共がクルウンに近寄らないようにする保安仕事。 この祭りを催すに当たってふたつの部落の実行委員会が共同で県の治安機構に許可を求め たが、治安機構は態度を決めることができなかったそうだ。公式許可は出なかったが禁止 という姿勢も示されなかった。しかたなくふたつの部落は郡役場を巻き込んでその祭りを 実行することに踏み切った。 各部落の役員は全部落民に対してこの祭りに関する細大漏らさぬオリエンテーションを与 えた上で催事の準備が開始された。部落民からは、この祭りをオープンにして両部落外の ひとびとも見物に来られるようにし、より大きな祭りになるようにしてほしいという要望 が出されたそうだ。 この竹の大砲はどこのパサルへ行っても販売されていない。このゲームを遊びたいなら、 大砲を自分で作らなければならないのだ。子供たちが主体者になる機会がそこに備わって いる。自分で素材を探し、自分で身体を動かして道具を作り出すことが大砲作りを通して 実践される。子供たちが大自然に親しみながら創造性を涵養して行くプロセスがこのゲー ムの中に用意されているのである。 さらに、ゲームを遊ぶ中で可燃物・爆発物を取り扱う局面が出て来る。危険を伴ってはい るが、必要とされる慎重さ・冷静さ・勇気・冒険心などもそれだけ大きなものになるだろ う。身体コントロール・敏捷さ・精神を落ち着けて安定させることなども涵養されるにち がいあるまい。 一見して大変大きいリスクをはらんでいる荒っぽいゲームのように見えるにもかかわらず、 インドネシアの大人たちはこのゲームを禁止して社会からなくすような動きを示さない。 そこにインドネシア独特の人間観が投影されているようにわたしには思われる。[ 完 ]