「庶民化が進むバリ島観光(後)」(2016年09月22日)

廉価にして最大の効用を引き出そうとするミドルクラスが経済性を考えながら観光旅行を
楽しむための受け皿が、バリ島にも増加してきているのである。それを受けて立つ側も、
商戦をこなさなければならない。こうして、昔は出さなかった価格レンジに既存業界も降
りてこざるを得なくなっている。

中部ジャワ州ソロにある旅行代理店は、オンラインパッケージの中に150万ルピアのバ
リ島旅行を掲載した。時代は既に廉価パッケージツアーへとシフトしており、廉価であり
ながら味わい応えのある内容にしなければ、消費者はそっぽを向いてしまう。昔のような
「廉くて貧相」では相手にしてもらえなくなっているのだ。その廉価パッケージは航空券
料金が含まれておらず、宿泊・運転手付きレンタカー・観光地の入場券がセットになって
いる。


マデ・マンク・パスティカ州知事はその状況について、バリ島が安物観光地になり下がる
ことを懸念している、と語った。観光客数は大きい数字になっても、経済面から質的に悪
化することが州知事の心配だ。

州知事は2013年から、バリ島南部地域は既にホテル客室数が過剰供給になっているた
め、新規のホテル建設を禁止させようとしたが、南部ばかりか州全域にわたって知事の意
向に服す県令がいなかった。そのためにホテル建設申請は基本条件さえ満たしていれば許
可され続け、最後にやってきた波がシティホテルで、結果的に街中にホテルが林立する姿
が作られてしまった。

客に高い料金を払わせ、しかしインドネシアで最高レベルの顧客サービスとホスピタリテ
ィを提供することでバランスを取っていたバリ島の観光産業だったが、今や昔ながらのス
タイルでは車輪が回らない状態へと押し流されつつある。少しでも低い料金で同じ内容の
楽しみが得られるなら、ミドルクラスは高い料金を言う店に背を向ける。昔ながらのスタ
イルが実現させていたものは、足元が揺さぶられるようになる。


バリ島への憧れというのは、単なる空気や雰囲気あるいはエキゾチシズムが醸成している
ものでなく、インドネシアでトップクラスのサービスを外国へ行かなくとも愉しむことが
できるという要素がその中に混在していた。意識するとしないとに関わらず、ミドルクラ
ス庶民はバリ島への憧れを求めてやってくるが、かれらがバリ島で買う、ホテルを含めた
あらゆるサービスと物品はおのずと庶民化したレベルのものになる。やってくる観光客は
どんどん増加するものの、ひとりひとりが落とす金は小さくなっていくのだ。観光産業で
支えられているバリ州経済にとって、これは州知事でなくとも不安を抱く材料となるにち
がいない。

タクシー業界も、水揚げの減少傾向に悩んでいる。タクシー運転手たちは、運転手付きレ
ンタカーにタクシービジネスが侵食されつつあると確信している。

中央統計庁バリ支所のデータによれば、2016年7月にグラライ空港に到着した国際線
フライトは2千5百便あり、46万人を運んできた。国内線はと言うと、3千5百便あっ
てジャカルタとスラバヤ発が主体をなし、51万1千人を運んできた。

観光客の平均宿泊日数は、10年前は一週間前後だったというのに、今では3日を割って
しまっている。いかに庶民化が進んでいるかをそれらのデータが如実に示しているのでは
ないだろうか。[ 完 ]