「スラバヤ・スー(45)」(2017年02月24日) 数日後、捜査官からタントリに連絡が来た。「詐欺の被害者はあのインドネシア人でなく、 あなたの方だ。」と捜査官は言う。 詳細な捜査を行った結果、華商はあのインドネシア人に支払い済みであることが立証され た。あのインドネシア人はその金を外国銀行に設けた第三者個人名義の口座に入れた。イ ンドネシア共和国の名義でもなく、またあのインドネシア人の名前でもない。 タントリはブンアミール宛てにこの事件の報告書を作り、伝書使に託してヨグヤに送った。 伝書使はジャカルタに入国してから、厳重な境界警備を通過して共和国側領地に潜入し、 ヨグヤカルタに向かわなければならない。報告書がブンアミールに届くかどうかは、まっ たくわからない。 ともあれ、オーストラリアに渡る資金がない以上、タントリはシンガポールに居続ける以 外にどこへも行くことができない。たとえ資金があったとしても、国家承認されていない インドネシア共和国のパスポートでは、オーストラリアへの入国は保証されない。とりあ えず、その問題の解決を図ろうとして、タントリは在シンガポールのアメリカ領事館にパ スポートを申請した。ところが何週間待っても、本国からの回答が来ない。 待ちあぐねたタントリはオーストラリアの高等弁務官にパスポートなしの入国を認めてほ しいとの申請を出した。高等弁務官はキャンベラにその申請を転送して指示を仰いだので、 この問題も待ち状態になった。どちらが先に結果をもたらしてくれるだろうか? そんなある夜、タントリが住んでいるビラに客人が来た。アブドゥル・モネムと名乗るエ ジプト人だ。インドでエジプト総領事を務めていたと語る。ファルーク国王にインドネシ アへの使節を命じられたと語り、種々の証明書や親書を示した。アラブ連盟がインドネシ ア共和国を国家承認して外交関係を結ぶことを声明すると言うのだ。 モネム氏はシンガポールのオランダ領事館にジャワ島に入るためのビザを申請したが、ま ったく無視された。インドネシア共和国領土への海上・陸上ルートをすべて封鎖してある 中を抜けてヨグヤカルタへ行くという外交官をジャワ島に上陸させるわけにはいかないに ちがいない。 シンガポール行政府に助力を要請したものの、イギリス人も迷惑顔をした上、おまけにジ ャワ島への渡航を目的にする出国許可は出さない、と言われた。マラヤを植民地に抱えて いるイギリス人にとって、アラブ連盟のその動きは間違いなくマラヤを刺激するにちがい ないと考えるのも当然のことだ。 こうなれば、シンガポールから密出国してオランダの海上封鎖を突破し、ジャワ島の共和 国領土に上陸するしかない。そこでその逆ルートをたどった経験を持つタントリに相談し に来たのだ、とモネム氏は打ち明けた。タントリはかれに説明した。[ 続く ]