「アイデンティティ社会(6)」(2017年03月29日) コンパス紙R&Dのアンケートではもうひとつ、宗教コンフリクトを強めている要因が何 に由来しているのかを尋ねる質問があった。集計された回答によれば、宗教アイデンティ ティの濃い者たちに不寛容性が強まっているという回答が40.1%で最大ポーションを 占めた。全貌は次の通り。 1.宗教者自身の不寛容性の強まり 40.1% 2.経済格差 29.5% 3.外国文化の流入 23.9% 4.SARAコンフリクト 2.1% 5.政治的利害 0.5% 6.モラル危機 0.4% 7.教育レベルの低さ 0.3% 8.ソーシャルメディアの影響 0.2% 9.不明・無回答 2.0% ビンネカトゥンガルイカというのは、NKRI(インドネシア統一国家)の中に異なる種 族や文化が併存していることを指している。それはつまりさまざまに異なるアイデンティ ティが並立してあふれかえっている状態をも意味している。そのアイデンティティが互い に対立し、敵視し、抗争するなら統一国家という政体が維持できるかどうかわからなくな る。インドネシアで今起こっているのがそれであり、それが現実のものになればNKRI を崩壊に導くかもしれないと懸念されている。 その立役者たちはみんな、ちょうど今から百年前に出現して自分の足場を築いた者たちだ、 という面白そうな話を、バリ島在住の芸術研究家ジャン・クトー氏が書いている。 アラビア半島では、サウジアラビア建国の礎を築いたイブン・サウドの一党が、当時世界 でもっとも不毛で貧困だったナジ砂漠に点在する砦をひとつひとつ陥落させている時期だ った。サウジアラビア王国の建国がなければ、イスラムの理解は現在のものとは異なった ものになっており、現代世界の様相もまた異なるものになっていただろう。 一方ヨーロッパでは、ロシア帝国がドイツにほぼ敗れ去り、国内の革命勃発という内憂外 患が相まってロシアの戦争継続能力は地に落ちた。ドイツがその勝利の大杯に手をかけた というのに、翌年のアメリカ参戦でドイツは一気に逆転降伏を余儀なくされた。敗戦後の ドイツを訪れた新体制はそれまで以上に激しいウルトラナショナリズムを勃興させ、ナチ ズムがふたたび世界大戦の渦にドイツを呑み込んでいく。その結末はアメリカの栄光とア ジア・アフリカに起った独立のうねりだった。 だがロシア帝国の敗戦が生み出したペトログラードにおける兵士と労働者の反乱が、ソビ エト革命と共産主義国家の誕生という、もっと大きな意味合いを世界史に残している。 [ 続く ]