「世界最古の手形の絵(後)」(2017年11月21日) 「経済活動を邪魔しようとは思わないし、国の経済開発は進められなければならない。し かし考古学上の探究もなされなければならない。われわれはその両立をはかって、双方が 救われるようにしたい。かつてマカッサルのセメント会社がレアンティンプセンのある一 帯の岩石採取をするので退去してくれと言ってきたことがある。なんと公的許可さえも取 り付けてあった。しかしわれわれは拒否した。最終的にかれらは思い直したようだ。この 一帯での活動をかれらは取りやめることにした。」 マロス〜パンケップカルスト地帯発掘チームはレアンティンプセンから5百メートルほど 北にあるレアンブルベットゥエ(Leang Bulu Bettue)を2014年に発掘調査し、いくつ かの骨片を発見した。それらの骨片には人間が施したとしか考えられない同一の模様が刻 まれていた。骨片は幾何学的な形状をしており、多分身に着ける装飾品の一つだったので はないかと推測されている。 それらの装飾品はインドネシアでこれまで一度も発見されたことのないものだ。古代人は 洞窟の中にも、幾何学的な模様を彫り込んでいる。発掘チームはその一帯で更に何らかの ものが発見されることで、何万年も昔にその地域に住んだ古代人の様子がもっと明らかに なっていくに違いないと期待に胸弾ませている。 世界最古の手形の絵をアイコンとするマロス〜パンケップカルスト地帯とトラジャの伝統 集落が数年前にユネスコの世界遺産登録候補に推薦された。考古学者たちは、世界が認め てくれるのを待っているのだ。世界が認めてくれたということで考古学上でかけがえのな い遺跡を内に秘めたブラックボックスが維持保存され、闇に埋もれていた太古の姿が視線 のかなたに浮かび上がってくる機会がその扉を開いてくれるのである。 残念ながら、それがインドネシアの現実の姿なのである。[ 完 ]