「風の目?(終)」(2017年12月08日) 西はどうかと言うと、何千年も昔に西方からヌサンタラへやってきたインド人の商人・船 乗り・僧侶たちが、「自分たちはBharataから来たのだ。」と言って西方を指さした。 昔インド人は自分たちの故郷、つまりインド亜大陸をBharataと呼んだ。サンスクリット 語のバラタはヒンディ語でバラッ(Bharat)と変化している。 東というのは「timur」と書かれるが、それが「timor」と類音綴りになっていることは明 らかだろう。そんな名前の島がムラユ文化地域から見て南東の方角にあったはずだ。 ヌサンタラの島嶼部に南東から吹いてくる風をオーストロネシアの船乗りたちは「ティム ル」と呼んだそうだ。ここでの「ティムル」の理解は東でなく南になっている。フィリピ ンのタガログ語で「南」を意味するのは「timog」という言葉であり、エティモロジー的 にその「ティムル」に関係していると見られている。 結局、南東にトゥンガラ(tenggara)という言葉が用いられるようになったことで、ティム ルは東を指す言葉の位置に昇格したのかもしれない。 サンスクリット語あるいはヒンディ語では八方位の名称がすべて異なる単語になっている。 多分さまざまなヒンドゥの神々に関わっていることからそういう結果になったのだろうと 思われるが、他の言葉はたいていが主四方位とその組み合わせになっていて、インドネシ ア語はちょっと奇妙なパターンを示している。 北東と北西はlautの言葉がついて一貫性を示しているというのに、南東と南西は同じパタ ーンになっていないのだ。その事実からも、tenggaraという言葉の由来が極めて興味深い 謎として浮かび上がってくる。「どうして南東がtimur dayaとならないでtenggaraという 言葉が定着したのか?」という疑問に呑まれて大勢のインドネシア人も悶々としていると いう話を聞いている。 その疑問を一刀両断に暴いた説はいまだに出現していないらしく、ネット上を探し回って 見たものの、糸口さえも見つからなかった。若い方にこの謎解きを託したいと思うのだが、 受けてくださる方はいらっしゃるだろうか? ちなみに、tenggaraという語の由来は南東を意味するタミル語の「テンキラック (tenkilakku)」に由来しているという説と、ジャワ語の「広い」という意味を表すテンガ ル(tenggar)あるいはテンゲル(tengger)という説があり、またそれに響きの似た言葉とし てテンケル(tengker)というのをわたしも発見している。テンケルは語源が不明だが、イ ンドネシア語では「轟音が鳴り響く」という意味だ。[ 完 ]