「ルマガダン宿泊の旅(前)」(2018年02月14日)

ミナンカバウの伝統家屋ルマガダン(rumah gadang)は母のシンボルだ。ブンダ(Bunda)と
呼ばれる母は、民族誕生神話に昇華されてブンドカンドゥアン(Bundo Kanduang)と名付け
られ、大は国から小は家庭に至る生活基盤を統率する女性を指す代名詞として使われるよ
うになった。

母が鎮座するルマガダンは代々、母系社会であるミナンの社会原理に従って女から女へと
伝えられてきた。同様に代々伝えられてきた水田や畑、そして土地も、売ることが伝統的
に禁止されている。

バゴンジョンと呼ばれる、上方に向けてせりあがる形の屋根を持つルマガダンは、長い年
月の間に風雨と天日にさらされて腐朽し、地震で傷み、火事で破壊される。何世紀にもわ
たる長い歴史の中で、ミナンの民衆はその建て直しを昔から自分たちの手で行ってきた。


しかし今や時代は変わったのだ。建て直しに必要な費用は、並みの金額ではない。各村落
のコミュニティが変質の道をたどりつつある現代、ルマガダンの維持は複雑な問題になっ
ている。西スマトラ州にある何百軒もあるルマガダンが、数百年もの歳月に痛めつけられ
た姿のまま、修理されずに放置されている。

たとえば織物で名を知られたタナダタル県スプルコタ郡パンダイシケッのススウィタさん
65歳の一族が住んでいるルマガダンがひとつの例だ。十世代に渡って住み継がれてきた
10メートルx25メートルの巨大な木造家屋は、半分が廃屋となり、使われているスペ
ースは半分になってしまった。おまけに2007年の地震で家屋を支えている主要柱のひ
とつが折れ、負担を支えることができなくなったために、家は傾いている。

家の外壁を成している木製の壁には美しい彫刻が施されていたが、腐ってぼろぼろになっ
たため、トタン板でカバーされているありさまだ。「金さえあれば、修理はできます。で
も7億ルピアですよ。ランタウに出た一族の者たちも、この家をなんとかしようという気
持ちはもうないみたい。」ミナンの織物産品ソンケッを織って生計を立てているススウィ
タさんの声には、諦めの色が滲み出ている。

近隣の村の中に、火事で焼け落ちた二軒のルマガダンを建て直したところがある。ミナン
の伝統文化を残す使命を負って活動している財団の援助と、村の公費や諸方面から募った
寄付金で行われた建て直しに要した資金は30億ルピアに達した。

そのスンプル村には、かつて2百軒のルマガダンが建っていたが、今やそれは65軒に減
少し、そのうちの25軒は空き家になっている。

南ソロッ県スガイパグ郡コトバル村のスリブルマガダン地区には134軒のルマガダンが
あり、住民は一千のルマガダンという地名に恥じないよう、積極的にできるかぎりのメン
テナンスを展開している。[ 続く ]