「ナシゴレン(6)」(2018年03月05日)

インドネシア語のゴレン(goreng)の語義は既述した。トゥミスに対応する中国語は炒(チ
ャ)で、炒飯の文字が示す通りだ。インドネシア語でどうしてナシトゥミスと呼ばないの
かの理由は上に書いた。

この油で熱して調理する方法を、インドネシアの原住民は中国人から学んだという説があ
る。というのは、1416年の鄭和大航海のときに通訳として従った馬歓の書き残したジ
ャワ島旅行記には、ジャワ島の原住民は昆虫類を火に少し焙っただけで食べている、とい
う記載があり、また1656年にジャワの内陸部を旅したファン・フーンス(Van Goens)
の記録にも、ジャワ王宮での宴ではヤギや羊、牛や水牛の肉を火で焙ったり、炒めたり、
干したものが山のように供され、油はバターの代わりのような使われ方をしていた、と書
かれている。

具体的な説明が乏しいためにはっきりとは断定しにくい面があるにせよ、現代インドネシ
ア人の「揚げ物(gorengan)」好きからは想像しにくいほど、昔のプリブミは火で焙る調理
法がマジョリティを占めていたように思われるのである。多量の油の中に食材を沈めて加
熱する調理方法は、ひょっとしたらここ数百年の間にインドネシア人の味覚をとりこにし
たということなのだろうか?


インドネシア語の中でのgorengとtumisの使い分けには、どうやらある傾向が見られるよ
うだ。

A.tumisの代わりにgorengが使われているもの:nasi, mi, bihun, kwetiau, telur, 
A.の用法がfrehch toast, roti, udang, ikan, cumi,などに使われることもあるが、
正確にtumisが使われるケースもある。

B.deep-fryの意味でgorengが使われているもの:ayam, bebek, nugget, tahu, tempe, 
bakwan, batagor, roti, lumpia, pastel, oncom, cireng, pisang, ubi, kerupuk, 
singkong, sukun, 
B.区分のものの中には、tumisの調理方法も使われるものがあり、その場合はtumisとい
う語が用いられて、明瞭に区別されている。

こうして見ると、やはり大カテゴリーのgorengと小カテゴリーのgorengは一大混乱の中で
使われているように思えてならない。tumisを大カテゴリーのgorengで表現するひとが絶
えないのは、単語の普及における時代差が影を落としたということなのだろうか?

tumisという語の普及範囲が狭いようには決して思えないのである。tumisをgorengと表現
するひとたちも誰かにtumisと言い直されるとうなずいているから、みんなその言葉は知
っていると見てよいだろう。しかし自発的にtumisの語を使おうとしないのは、いつまで
たってもnasi gorengという言葉がnasi tumisに変わらないことにひょっとしたら関係し
ているのかもしれない。[ 続く ]