「サバ缶寄生虫事件の教訓(後)」(2018年04月12日) 販売後に調理がなされる鮮魚に対する冷凍処理の義務付けはない。水産加工業界が調達し て、たとえば魚肉缶詰産業のように製造工程の中で調理や処理が行われたり、あるいは一 般消費者が購入して家庭で加熱処理がなされることを前提としているからだ。 魚肉の中心部まで70℃の熱が2分間通されたなら、寄生虫は死ぬ。缶詰製品製造過程で は一般に115〜121℃で60〜150分の加熱が行われることから、寄生虫に対する 処置はたいへん効果的と?見ることができる。 寄生虫が冷凍や加熱で死ねば、可能性の低い例外現象を除いて健康上のリスクはなくなる。 例外現象とはセンシティブなひとびとに発生するアレルギー症状だ。 とはいえ、原材料がキロ当たり2匹という許容限度を超えた劣等品質であったならば、エ ステティック感覚・完璧性への瑕瑾・不潔醜猥感覚などの心理を引き起こすにちがいない。 < インドネシアのケース > インドネシアで今回の寄生虫事件は、食品薬品監督庁(BPOM)がサバの魚肉缶詰に寄 生虫を発見したことが公表されてからバイラル現象と化して拡大した。BPOMが厳格な 監視努力を行っていることは称賛に値する。食品安全問題でなかったとはいえ、BPOM はサバ缶詰内の寄生虫を看過できない品質上の瑕疵と見なし、こうして製品の市場回収と いうリスクマネージメントステップが踏まれたのだ。 実は、サバとイワシの魚肉缶詰に対するインドネシア製品規格(SNI 8222-2016)には寄 生虫に関する規定が設けられておらず、そのSNIには、加工される魚肉材料は鮮魚であ ると冷凍魚であるとに関わらず、条件をクリヤーしたものでなければならない、と記され ているだけだ。鮮魚に関するSNIはSNI 2729-2013、冷凍魚に関するSNIはSNI 4110- 2014であり、そのいずれもが寄生虫に関する許容度をゼロとしている。BPOMが品質不 適合として製品の市場回収を命じたのは、そのSNIが根拠になったようだ。 今回の出来事からわれわれは、ふたつの重要な教訓を学ぶことができる。ひとつはある規 準を満たす達成度に関わるものであり、含有寄生虫の許容度がゼロという規定について、 再議論がなされる必要がある。魚の寄生虫はエコシステム上の平常現象であるため、寄生 虫の付着は当然のものという前提に立つべきだろう。もちろん許容限度が既存の規定(C ODEX STAN)を超えてはならない。 規準をあまりにも厳しく設定すれば達成度が低下することになって、廃棄される製品が大 量に発生したり、生産コストが大幅に上昇して無理がかかる。自然現象に関連する規準の 設定では、ALARA原則を踏まえた規準が設定されるべきだ。更には、国際通商という コンテキストにおけるCACメンバー国のひとつとして、CODEXの規準より厳しいも のを設ける場合は適切なリスク分析が添えられる必要がある。それらの理由から、魚肉寄 生虫に関するSNIの規定は見直されるべきなのである。 もうひとつの教訓は、リスクコミュニケーションの重要性に関するものだ。食品安全管理 においてインドネシアは、リスク検討・リスクマネージメント・リスクコミュニケーショ ンから成るリスク分析アプローチ手法を用いている。リスクマネージメントの各ステップ はリスク検討をベースに置き、優れたリスクコミュニケーションプランに伴われるべきも のである。優れたリスクコミュニケーションはリスクマネージメントの目標達成チャンス を押し上げる。世間を大騒ぎさせたり、余計な費用発生を伴うことなしに。[ 完 ]