「高官を襲ったのが運の尽き(後)」(2018年07月10日) オレンジテントのシンジケート本部を警察が監視下に置き、寄ってくる者を連行しようと した7月1日夜、4人がその網にかかった。そのうちのひとりは抵抗したために射殺され ている。 3日の夜にもシンジケート本部近辺で逮捕劇が行われ、メンバーのひとりが捕まった。仲 間のところへ案内しろと捜査員が言うと、犯罪者はたいてい同意する。逃げるチャンスが 与えられたと思うのだろう。 数十年前になるが、警察留置場は満員で犯罪者を捕らえても収容する場所がないと言われ ていたころ、警察は捕らえた犯人を引き回すことが多かった。その機をとらえて犯罪者が 逃走しかけると、捜査員は逃がしてならじと発砲する。そして犯罪者は射殺されるのであ る。そのころに流行ったジョークの中に、「脚を狙うと頭に当たる」というものがあった。 その後、警察員の犯罪者射殺に関する責任審査が厳格化されたことで、今では射殺事件が 往時より減っているとはいえ、民心にある悪人粛清は正義であるという観念が「悪人の人 命尊重権」に変容したわけではない。死刑を毎週行えという民心からの声は、それを証明 するものだとわたしには見える。首都警察長官が檄を飛ばすのを見ても分かるように、社 会を覆っている価値観がそのような形を発露させているのだから、インドネシア文化にあ る生命の価値観念を過大評価しないほうがよいだろう。 御多聞に洩れず、仲間の居場所を教えることに同意した犯人も、機会を見て捜査員に逆襲 し、逃走しようとしたために、射殺された。これでオレンジテントメンバー射殺は三人目 になる。 オレンジテントが都内をいくつのテリトリーに分け、いくつのグループに各テリトリーを 請け負わせていたのかは情報が得られないために判然としないが、各グループは一日に5 件ほど仕事を行っていたらしい。いかにたくさんの被害者が警察に届けも出さないで泣き 寝入りしていたかということがそこからうかがえる。 警察は既に5つのグループを壊滅させ、残った者たちを追跡中だ。シンジケートのボスも そのひとりであり、ボスの行方は杳として知れない。 もちろん、このシンジケートに属さない者たちが都内で行うひったくり犯罪も、数え切れ るものでない。このシンジケートが壊滅すればジャカルタの路上からひったくりが消えて なくなるわけでは決してないのだから。[ 完 ]