「南往き街道(27)」(2018年07月16日)

東ジャカルタ市チピナン(Cipinang)のコメ中央市場には、床にこぼれたコメを拾い集め、
それを売れる形にし直して再販する人間がいる。貧困層の人間で、収入の道をあれこれ求
める者の中に、そういう作業をなりわいの種にする者が出現するのだ。そしてクラマッジ
ャティ中央市場とて、その例外ではないのである。

運搬途中で床に落ちた品物、腐ったり、あるいは汚れで売物にできないと店主が判断した
ためにゴミ捨て場に捨てられた品物でも、腐敗部分や汚れ・変色をていねいに取り去れば、
半分くらいは使用に耐える品物がけっこうある。かれらはその作業を行うのである。アト
ゥンさん47歳は中部ジャワ州ドゥマッ(Demak)から17歳のときジャカルタに出て来て、
それ以来30年間そのビジネスを続けている。

かの女は再販できそうなあらゆる物を拾い集める。そしてきれいにしてから、それを種類
別に小袋に詰める。たとえばほぼ1キロ近い玉ねぎを一袋2万ルピアで販売する。正規商
人の売場では相場キロ当たり2万8千ルピア。

かの女のこの商売による収入はひと月350万ルピア。最低賃金よりも高い。住居費とひ
と月の生活費はそれで賄えて、おまけに二週間に一度帰省するための長距離列車代金もそ
こから出せる。夫が故郷で百姓しているから、二週間に一度は帰省するのだそうだ。


一方、赤バワンの皮むきを仕事にしているスカルティさん50歳は、毎日12時間、コン
クリートの床に座って作業する。百キロ分の作業をして賃金7万ルピアが手に入る。百キ
ロを片付けるために12時間かかるというわけだ。それを毎日繰り返して手に入る月収は
やっと210万ルピア。

クラマッジャティ中央市場は単なる経済活動の場というものではない。そして物資流通の
仕組みを支えている機能だけが運動しているというものでもない。そこには、それらとは
直接的な関りを持たず、またマクロな機能とは無縁の多数のひとびとがその場に頼って生
きている、そういうありさまを映し出しているスクリーンでもあるのだ。

先進国には見当たらないアトゥンさんのような商売がどうして成り立ちうるのか、はたま
た先進国と発展途上国を区分する境界線がそこにあるのだという見方が当を得ているもの
なのかどうか、更にそのような商売がなくなることが先進国の指標であるかのような評価
が正しいのかどうか。先進国とは経済面における評価指標であるというものの見方を人間
開発面におけるものに入れ替えた時、先進国という言葉はきっと思想革命を引き起こすも
のになりかねないのではあるまいか。[ 続く ]