「新アレンジの催眠術詐欺」(2018年08月14日)

相変わらず街中ですれ違う見知らぬ人間を詐欺にかける手口はインドネシアで使われ続け
ている。この催眠術詐欺という手口は、肩をポンと叩いたり眼をじっと覗き込んでかける
ものとインドネシア社会では信じられているのだが、施術のきっかけはよくわからないも
のの、つまるところ被害者の意識を従属状態にさせて犯人の言い付けに従わさせるという
心理学の極致を思わせる術が使われるようだ。

今回捕まった詐欺グループは家庭の主婦をターゲットにして過去11回犯行を行い、得た
金は身内の口座に送って隠し、メンバーの中にはその金で家を買った者もあるとのこと。
2018年7月16日に西ジャカルタ市の自宅を出てすぐ近い通りに向かう角を曲がった
とき、60歳のハンナさんは小型トランクを引っ張っている恰幅の良いひとりの紳士に出
会った。紳士はハンナさんに「マシトさんの家はどこですか?」と尋ねた。ハンナさんに
は知らない名前だ。
「実は、わたしはシンガポールの石油王で、ジャカルタの孤児養育財団に寄付するために
トランク一杯の現金を持って来たんですよ。」とその大柄で色が白く、切れ長の目をした
紳士は語る。

すると突然別の中年男性がやってきて、「ああ、この人は困っている外国人を扶けようと
している親切なひとだ。かれはね、住所を探し回っているんですが、なかなか見つからな
いで困っています。さあ、われわれもかれを手伝ってあげましょうよ。」とハンナさんに
語りかけた。

するとそのとき白色の車が一台通りかかる。中年男性は「ああ、いいところに銀行員が来
た。あの車に乗せてもらいましょう。」とハンナさんと石油王を誘って乗り込む。


車内で中年男性は「このトランクの現金をルピアに換えるのを手伝ってもらえませんか?
ルピアをどのくらいお持ちですか?」と尋ねる。

ハンナさんがありのままを答えると、石油王はトランクから紙幣を出して「じゃあこのお
金を13枚あげますから、4千万ルピアをください。これは1枚1千万ルピアに相当する
んですよ。」と言う。

中年男性も2千5百万ルピアの札束をハンナさんに示して、「こりゃあとてつもなく割の
いい話なんで、わたしもあとでかれにシンガポールドル紙幣を売ってもらうつもりです。」
と追い討ちをかける。

運転者はチプリルのBRI銀行に向かい、三人は車から出てATMに入る。ハンナさんが
口座をほとんど空にしてルピア現金を渡し、石油王は13枚の紙幣と帰りの交通費30万
ルピアを渡すと、男たちふたりはまた車に戻って姿を消した。


警察発表によれば、その13枚の紙幣はホンモノだがシンガポール政府が15年前に廃止
したものであり、それを金に換えるのは古銭商で二束三文で売り払うしかないそうだ。

警察はこの一味三人を8月1日に逮捕した。石油王に成りすましたドディ64歳は、他人
を自分の影響下に置くために次から次へと相手に話しかけて考える隙を与えないという術
を自分の人生経験の中から編み出したそうだ。

シンガポール紙幣は中央ジャカルタ市パサールバルで仕入れたそうで、30万ルピアも払
えば、山盛りの札束が手に入る、と語っている。