「ボラ(終)」(2018年12月06日) ヨーロッパ人は昔から祝祭があると村中総出で集まって、男女が輪を作って踊るという娯 楽を伝統にした。いや、きっとそれはヨーロッパだけに限ったことではあるまい。 身体を揺らす、つまり踊ることを古代ギリシャ語ではバリーゾと言い、ラテン語に入って バラーレballareとなった。現代イタリア語もballareだ。英語のボールballには球とは別 の意味があり、社交ダンスパーティを意味している。5星級ホテルにはみんなボールルー ムball roomがあるではないか。 最初、印欧祖語に球を意味するbhel-の語があり、bal-が分かれてダンスを産んだそうだ。 そこにふたつの流れが生まれ、ひとつは玉や球、円や球の形状、吹いて膨らます、などの 派生語に発展し、もうひとつは跳んだり、跳ねたり、踊ったりという方向に言葉を増やし た。 ダンスを意味するイタリア語のバロballoの指小形バレットballettoをフランス人はバレー balletとし、それに倣ったオランダ人からインドネシア語のバレッbaletができた。 バレーを踊る女性はイタリア語でバレリーナballerina、男性はバレリーノballerinoだが、 どうやらインドネシア語に入ったのはバレリーナだけで、インドネシア人がバレリーノと いう言葉を使うとき、それはイタリア語として使われているようだ。 古プロヴァンス語バラダbaladaに由来するフランス語のバラドballadeは元々、村人のダ ンスの集いに伴奏として歌われたものだったそうだ。現代語としてのバラッドは意味が変 化している。この言葉はインドネシア語にバラダbaladaという形で入った。 さて、さまざまな球技で使われるボールだが、最初は皮や動物の内臓などを膨らませたり、 あるいは小枝などを球形に編んだものが使われた。ところが新大陸が発見され、原住民が よく弾む丸いもので競技をしているのを見たスペイン人征服者は驚いた。それがゴムボー ルの事始めだそうだ。 こうしてゴムボールは世界のスポーツ界を席巻し、スペイン人は大いなる繁栄を築く。ア マゾン川沿いの、大ジャングルのまっただ中に作られたマナウスの町がゴム取引の中心地 となり、世界一豊かな町と謳われた。スペイン人は独占を維持しようとして、ゴムの木を 外国人に渡す者は死刑に処す方針を採ったものの、そうは問屋が卸さない。イギリス人が 苗を手に入れてインドやマラヤで栽培を開始したため、スペインの独占は崩壊し、マナウ スは破綻した。 今、マレーシアやインドネシアがゴムの世界的な輸出国になっているが、それで豊かな国 になれる時代はもうやってこない。[ 完 ]