「電子KTP異変〜国は美田なり(1)」(2018年12月13日) KTP(住民証明書)は昔、ニセモノが簡単に作られた。要するに、自分の顔写真と偽名 ・架空住所の記載された証明書だ。住民自治組織であるRT/RWが添えた「本人に相違 ございません」という添状を頼りに町役場が発行する仕組みが、わずかな金でいとも簡単 に転んでいた。ひとりで5枚も6枚も偽名のKTPを持っていた犯罪者もいる。 オルバ期の中華系国民への抑圧の中にKTP発行も場を得ていた時期があり、期限更新の たびに法外な金を町役場のKTP発行職員から搾り取られている話をしてくれたひともあ る。オルバ期を終えてから中華系国民復権の風がそんなありさまを徐々に下火にしては行 ったが、KTP発行にしみついたプンリの習慣までは、なかなか変化が起こらなかった。 そんな状況を改善するために、政府は全国民のデータを一カ所に集中させることにし、K TP発行にそのデータバンクを絡ませる仕組みに変更した。この方式で発行されるKTP にはチップが埋め込まれて、より詳細な本人データがそこに記録される。この方式で作ら れたKTPは電子KTP(KTP-el)と呼ばれている。 この方式は国民の虚偽申告への対応と共に、末端行政機構に対する統制というふたつの側 面を持つものだ。ところが、最初は華々しく進展していた電子KTPへの切り換えが、そ のうちにおかしな風向きに変わって来たのである。発行のための諸手続きをすべて終えて、 あとは発行されるのを待つばかりというひとがどんどんと増加してきたのだ。何年も待っ て、待ちくたびれているひとさえざらにある。 西バンドン県に住むエカリさん24歳は、電子KTPを待ち続けてもう4年になる。かれ はほとんど毎週、県庁住民管理市民登録局を訪れて状況を尋ねているが、毎回聞かされる 返事は同じ。町役場で登録されたデータがまだ本庁のサーバーに入っていない、と言うの である。 KTPのないインドネシア国民は、公的活動が何ひとつできなくなる。銀行口座も開けず、 パスポートも作れない。選挙での投票さえさせてもらえない。 ボゴール県チルンシ郡に住むテテンさん41歳も、夫婦と子供の一家三人が2016年9 月に町役場でデータ登録を済ませたあと、待ちぼうけをくわされている。そればかりか、 この一家にはさらにやっかいなことがらがまとわりついてきた。[ 続く ]