「ヘイトイデオロギー(前)」(2019年03月21日)

ライター: 人権活動家、第四代大統領の長女、アリッサ・ワヒッ
ソース: 2019年3月17日付けコンパス紙 "Kebencian"

平和でその名を知られた世界の片隅にあるその国で、ましてやイスラム的価値観から見て
もっともイスラミックな国のひとつとまで評価されたその国で、武装した男が突然銃を乱
射して数十人を殺害した。金曜日の礼拝が行われているモスクの真っただ中で。

ニュージーランドのクライストチャーチにあるふたつのモスクで49人のムスリムが生命
を奪われた事件は、世界中でローンウルフが行って来たさまざまなテロ行動の被害者数を
増加させた。一匹狼たちは様々な手口でテロ活動を行う。自爆、銃撃、刃物、罪のない群
衆に向かって自動車を突っ込ませる。


ブレントン・タラントは頭部に装着したカメラから全世界に向けて、自分が行っているそ
の蛮行をストリーミング放映して見せつけた。タラントはアルノールモスクで行った残虐
行為の場面を17分間フェイスブックに流し、ユーチューブにも同じ動画を載せた。フェ
イスブックもユーチューブも、他のインターネットプラットフォームも、その動画を既に
消去し、同時にネティズンに対してビデオを公開しないように勧告している。

インターネットやソスメドへの残虐行為の放映はこれが初めてではない。昨年はインドで
ヒンドゥ教義にもとづくcow vigilante(牛守護団)グループがワッツアップを使って、
州法で禁止されている牛の屠殺と牛肉販売を行った人間に対するリンチ暴行場面を放映し、
犯人アリムディン・アンサリが殺された。牛肉消費者もカウビジランテのターゲットにさ
れる。

その二つのビデオ放映の目的は似通ったものだ。より広範な公衆に対するテロである。イ
ンドのカウビジランテは非ヒンドゥ教徒を怯えさせて、ヒンドゥ教義への破戒を慎ませ、
教義の神性さを護持するのを目的にしている。

クライストチャーチ事件の方は、他の場所でムスリムが宗教の名のもとに行って来たテロ
行動への報復としてイスラム教徒国民を怯えさせることがそのターゲットだ。デジタル世
界の進歩は宣伝ツールの伝達力を数層倍に押し上げている。

それらの事件にせよ、他のさまざまなテロ活動にせよ、テロ行動が示しているのは、自己
アイデンティティにしている自分の所属社会を破壊し崩壊させるとテロリストが考えてい
る他の社会グループに対する無限の憎悪がかれらの行動を駆るエネルギー源になっている
ということである。

2018年に米国ピッツバーグのシナゴーグを銃で襲撃して11人を殺害し、7人に傷を
負わせたロバート・ボワーズは、ユダヤ人が連れて来た移民が犯罪者になり、白人を殺し
ている、と述べている。

かれはかつて極右メディアGabにこんなメッセージを書いた。多様性という言葉の本質
は白人を滅ぼすことであり、白人が多様性の犠牲になるのを自分は決して捨て置かないこ
とを誓う。

昨年のスラバヤの三教会への自爆テロ襲撃実行犯だったディタの一家も同じような確信を
抱いていた。キリスト教徒集団はイスラム教とインドネシアのムスリム社会を滅ぼそうと
している。だからディタと妻は自分たちが憎悪する集団に対するテロ行動を選択した。悲
劇的だったのは、自覚して自分の行動を選択する能力をまだ持たない子供たちをそれに巻
き込んだことだった。[ 続く ]