「自動車乗り逃げ事件」(2019年03月25日)

犯罪者はありとあらゆる手口を使うものだ。被害者の弱点がそこにある。人間は普段、そ
れぞれひとりひとりの資質と性向にもとづいて自然に行動しているのだが、犯罪者はその
自然さの中に付け入って来るのである。当然ながら付け入りやすいケースがあり、そして
付け入りにくいケースもある。それを「運」と呼ばれる神の手に委ねてよいのだろうか?

リアトゥン(女性、21歳)はデポッ市で美容サロンを営んでいる姉を頼って中部ジャワ
州ブルブスから上京してきた。美容サロン「ザバージン」はデポックITCモール内にあ
る。リアトゥンはバタムへ出稼ぎに行って美容サロンで働いた経験があるから、姉にとっ
ても好都合だ。

しばらくして仕事と生活に慣れてくると、リアトゥンは毎日の暮らしにむなしさを感じる
ようになった。先輩従業員に「ボーイフレンドを紹介して。」と頼むようになる。先輩従
業員は後に「あの娘、まだまだおぼこで引っ込み思案なところがあるくせに、男を欲しが
るんだから。」と語って首を横に振っていた。

ある夜、プソナカヤガン住宅地にある姉の家に戻る途中、リアトゥンは運転していた車か
ら降りてナンカの実を買った。時計は21時を少し回ったころだ。姉の車をひとりで運転
していたリアトゥンはそのとき、短パンにTシャツという姿だった。そして灯りに導かれ
た羽虫のように、ひとりの男がオートバイで近寄って来た。
「ねえ、一緒に食事しないか?後ろに乗れよ。」

しかし姉の車を残して行くわけにはいかない。いくらロックしたとて、いつまでもそこに
ある保証などどこにもないのがインドネシアだ。はしゃぐ心を抑えて、リアトゥンは逆オ
ファーした。「じゃあ、あたしの車で行こうよ。」

アンドリと名乗った男はオートバイを近くにあるルコの駐車番に預けて助手席に座った。
アンチョルへ行くことで合意し、車はアンチョルを目指す。


夜半ごろ、同じ車がアンチョルから出て来ると、自動車専用道に入った。運転しているの
はリアトゥンだ。ご機嫌のリアトゥンはさっき交わした情事も手伝って、意識はぼんやり
している。ふと気が付くと、車はチカンペッ自動車道のプルバルニ自動車道インターチェ
ンジ近くまで来ていた。
「道を間違えちゃった。デポッへ戻らなきゃ。」しかしリアトゥンはもう体力の限界だ。
居眠り運転しかねない。「ねえ、アンドリ、デポッへ戻ろうよ。あなたが運転して。お願
い。」

アンドリがハンドルを握り、車はジャカルタ方面に向きを変えて走った。しばらくしてか
らリアトゥンは眠りから醒めて、車が既にジャゴラウィ自動車を走っていることを知った。

ここからは自分が運転するから交代してくれとリアトゥンはアンドリに言う。車は路肩に
止まった。リアトゥンは助手席から降りて運転席へ回ろうとしたが、アンドリの降りる気
配がない。リアトゥンが車の後ろを回っているとき、突然エンジン音が高まり、車は急発
進した。あっと思う間もなく、車は空いているジャゴラウィ自動車道を高速で離れて行き、
赤いテールランプがけし粒のようになって視界から消えた。

自動車専用道の路肩を歩いているとき、親切な車がリアトゥンを拾ってくれて、チマンギ
ス料金所で降ろしてくれた。リアトゥンは自動車を乗り逃げされたことを係員に訴えた。
時計は午前3時をかなり回っていた。