「無許可学術調査に鉄槌を」(2019年03月25日)

巨大蜂の発見を、インドネシアの国法を犯して行われた科学者の業績と見るか、作法無視
の跳ねっ返り魂のなせる悪行とみるかは別にして、インドネシア学術界はその現象が広が
る一方であることを強く懸念している。

観光産業振興を目的にして観光入国がきわめて容易になっている現状がその状況を支えて
いるのは疑いがない。その状況を利して四人のポーランド人が、巨大蜂発見のニュースに
酔う世界をしり目にインドネシア国内に醸成され始めた無許可学術調査への怒りを知らぬ
まま、似たようなことを行ったものの二匹目のどぜうはいなかった。

いや、本当に知らなかったのか、それとも見くびったのか?いくらなんでもインドネシア
の国法を知らなかったわけでもあるまい。それではあまりにもナイーブすぎる。

この記事で学術調査という言葉を使ってきているが、本当の科学者が学術進歩を目的にし
て行う行為だけを対象にしているわけでないことを、まずお断りしておこう。希少価値を
持つ生物を収集するコレクター精神、更にはそういうキュリオの売買で一儲けをたくらむ
商売人などがそこに一括りにされていることは議論の余地がない。

象牙の塔にこもる純粋純朴な科学者でなくとも、現地調査を行って珍しいものを収集する
コレクターがそれを行っても、学術的なカテゴリーに属すことがらという点においては違
いがないという解釈だ。要は、希少価値を持つ動植物をインドネシア領土内で収集して持
ち帰る外国人の行為がそれに該当しているということなのである。インドネシア側から見
た一方的な語法ではあるが、何しろ主権者が言っているのだから、従うしかあるまい。


西カリマンタン州シンタン県クラム丘自然保護林の境界線の内側とクラム丘にあるマリア
洞窟の付近で、2019年3月18日と19日に昆虫採集をしている4人の白人が逮捕さ
れた。逮捕したのはイミグレ捜査官・国軍諜報戦略庁捜査員・地元警察の混成班で、この
種の事件ではたいてい、地元民からの通報によって急遽実働班が編成され、容疑者逮捕に
出動するのが一般的なプロセスになっている。

取調べの結果、その四人は全員がポーランド人で、2019年3月2日にオランダからス
カルノハッタ空港へのフライトで到着して入国手続きを済ませ、その後西カリマンタンに
移動して保護林内で動植物の採集を行っていたことが明らかになった。インドネシア共和
国リサーチテクノロジー高等教育省が発行している学術調査許可はまったく保有しておら
ず、四人の行動は入国目的への違反行為であることから、現地のイミグレーション事務所
はかれらの身柄を即時拘留した。

その報告が伝わるや、リサーチテクノロジー高等教育省は現地のイミグレーション事務所
と法務省イミグレ総局に対して、その四人を厳罰に処すよう要請する文書を出している。

その四人は珍しい蘭や希少な昆虫を保護林一円で採集しており、かれらの獲物の中にはタ
ランチュラや足が赤い色のムカデや青い色のムカデなどがふた付きガラス管に納められて
いた。かれらを取り調べたイミグレーション諜報捜査官は、足の赤や青色のムカデは生ま
れて初めて見た、と語っている。

英国タランチュラソサエティ会報誌2019年2月号にマレーシアのサラワク州で発見さ
れたブルータランチュラ(Birupes simoroxigorum)の新種に関する報告があり、マレーシ
ア政府は現地を訪れた三人のポーランド人が密かにそれを国外に持ち出したものと見て非
難している。その三人は現場調査を行う収集家であると見られており、西カリマンタン州
で今回逮捕された四人のポーランド人はその事件と関連性があるのではないかとインドネ
シア政府は見ている。