「人気の高いジャカルタMRT」(2019年04月15日)

4月1日から有料運転の開始されたジャカルタMRTは、4月いっぱい半額サービスの心
理効果も手伝ってか、連日高い乗車率を示している。特に日曜日はたいへんな人出で、乗
車券を購入するひとびとの長い列ができている。

ひとびとはHIロータリーとルバッブルスの両ターミナルを往復して乗り心地や地下を走
るセンセーション、あるいは高架線からの景観を満喫しているようだ。まるで新しい遊園
地の乗物ができたような印象をかれらは抱いているようにも見える。

そんなひとびとの集団移動を途中の駅に分散させるため、MRT経営陣は途中の駅でさま
ざまな催しを行わせるようにした。おかげで二点集中が軽減されて途中駅での人の流れが
増加しており、その方針は的中したように思われる。


ひとつ困った問題が発生した。両ターミナルに集まって来たひとびとは、乗車券を購入し
て別のターミナルまで行き、そしてそこから元のターミナルに引き返して来るのだが、本
来なら出発駅で購入した乗車券で入場し、ターミナル駅で降りたら一旦外へ出て、ふたた
び乗車券を購入して戻りルートの車両に乗らなければならないというのに、たいていの乗
客がそれをショートカットした。行った先のターミナルで外へ出ず、そのまま戻りの列車
に乗り込んで元のターミナルに帰って来るのである。

元のターミナルに帰ってきて、いざ外へ出ようとして最初の乗車券を検札機にタップした
のに機械が通してくれず、立ち往生する乗客が続出した。それは本来的に違反行為であり、
違反者には罰金が科されることになっている。

MRT運営者は急遽、利用者に対して乗車券取扱いの要領と仕組みを説明するパネルを用
意した。出発駅でタップインして入った乗車券は降りた駅で必ずタップアウトしなければ
ならない。要するに、構内から一度外へ出ろということだ。もう一度乗りたければ、乗車
券をもう一回買えということをそれは意味している。

同じような誤解は、銀行や金融機関が発行する交通機関用のキャッシュカードでも発生し
た。一家三人や四人のグループが一枚のキャッシュカードで連続入場しようとしたのだが、
二人目以降は入場を拒否された。キャッシュカードの残高不足ではなく、タップイン・タ
ップアウトのロジックに反していたためだ。ということで、これもMRT運営者の社会告
知不足という結論に至った。


社会構成員それぞれが社会の中で自分が取るべき行動を調べ、考え、意識を持って行って
いる社会とは異なり、自分の我流を原則とし、間違っていればそこで教えられたように自
分の行動を調整すればよいというコンセプトで動くのが一般的な社会では、自分が取るべ
き行動を調べたり情報を集めるような行為があまり行われない。

そこに見られるものを社会構成員の迂闊さや愚かさばかりに帰するのでなく、社会を秩序
付けるために置かれている行政側要員の決まり執行に対するはなはだしい個人差をもわれ
われは視野に含ませなければフェアな理解に至らないだろう。

ただその因果関係がどうであれ、われわれが工場の掲示板に紙を一枚貼りだしておけば済
む文化と、職制を通して現場作業員にくだくだと説明させなければ浸透しない社会の効率
面における差は歴然たるものが観測される。

そういう非効率が慣習化してしまった社会では、掲示板の一枚の紙では世間が社会告知不
足という結論をくだすのが当然となるにちがいない。そのレベルの社会告知不足が社会に
対する無責任という形の非難に向かわないだけ、この社会はまだ幸いと言えるのかもしれ
ない。