「ラマンとマンジャランミントゥオ(前)」(2019年05月27日)

東南アジアにはもち米にココナツミルクを加えてバナナの葉で包み、それを竹の節の中に
詰めて焼く調理法がある。インドネシアではそれをルマンlemangと呼ぶ。もちろん、イ
ンドネシアの各種族文化によって、名称も異なれば味付けや食べ方までさまざまなバリエ
ーションに分かれていて、多様性を映し出す鏡になっている。

傾向として言えるのは、祝祭のために作られ、おやつとして食されるということだ。もち
米が使われることがそれを端的に表しているようにわたしには思われるのだが、どうだろ
うか?甘くして食べる種族、おかずを加えて塩味にして食べる種族、ドリアンなどの果実
と一緒に食べる種族など、いろいろだ。


ミナンカバウ語でルマンはラマンlamangと呼ばれ、ムスリムが断食の行を行うラマダン
月を迎える慣行としてラマンが手土産に用いられる。ラマダン月を無事に終えたルバラン
だけが祝祭と思ってはならないのである。

母系制社会の代表格とされているミナンカバウでは、ラマダン月を迎えるとき、イドゥル
フィトリ祝祭日とイドゥルアドハ祝祭日に、嫁が夫の母親、つまり姑を表敬訪問して夫の
一族と親交を深める慣習が行われている。もちろん、嫁の夫婦がジャカルタのようなあま
りにも遠い場所に住んでいれば話が変わって来るのだが、近隣の別の都市であるならこれ
は義務に近いものになる。この慣習はミナンカバウ語でmanjalang mintuo、インドネシア
語にするとmenjelang mertuaと呼ばれている。つまり姑訪問なのだ。

そのときに嫁は姑に進呈するためのさまざまな手土産を、主におやつの類なのだが、持っ
て行く。ラマンがその代表格であるのは言うまでもあるまい。


去る19年5月5日朝、スクーターに乗った熟年男性がパダン市内でラマンの作り売りを
しているアスニさんの店にやってきた。「オネ、ラマンはまだあるかい?昨日注文しそこ
なったんだ。まだあれば三本買いたい。」

ラマダン月が近付いてくると、34歳のオネ・アスニはラマン作りに精を出す。注文は一
日に2百本にのぼることもあるが、白もち米を洗い、ココナツミルクと塩をかけ、バナナ
の葉で包んで竹の節の長いものを選んで詰め、3時間半かけて焼き上げるラマンを、かの
女は一日に30本しか作らない。

アスニさんは米だけの普通のラマンプティの他に、中にバナナの実をはさんだラマンピサ
ンとココナツの果肉にヤシ砂糖を混ぜたものを中に含めたラマンルオの三種類を作ってい
る。値段は一本が5万から7.5万ルピア。[ 続く ]