「5月22日ジャカルタ暴動の総決算(1)」(2019年05月27日) 2019年5月22日の総選挙コミッションによる4月17日総選挙投票結果の公式発表 を拒否しようというプラボウォ=サンディ陣営の呼びかけで、全国的にそれに応じる声が 広がった。何しろ、国民の票を45%も獲得した勢力の呼び声だから、かれらに投票した 国民が支持者の呼び声に応えないでどうするのかというところだろう。 人間性発火物と昔から呼ばれてきたインドネシア民族は、圧倒的な人間のマスができると アモックに向かう強い傾向を持っている。そういう状況を作り上げてマスの中に扇動者を 潜入させ、あちらこちらで発生させたアモックを巧みに指揮して特定対象に集中させれば、 広域大暴動を起させることも可能だ。それが大成功した例が1988年5月13〜15日 のスハルト政権滅亡を狙ったジャカルタ5月暴動だというのが定評になっている。 だがそのような扇動者の潜入さえなければ、デモがアナーキーな破壊行動に発展すること はまず起こらない。いきり立つ羊たちの怒りの表現として穏やかに終わっていくのが通常 の姿なのである。 扇動者のことをインドネシア語でプロヴォカトルprovokatorと言う。インドネシア社会で プロヴォカトルの行動は民衆の怒りを焚きつけて為政者あるいは国家体制への反抗の意思 表示をさせることに重点を置いているのでなく、特定勢力が国家体制に打撃を与えること を目的に民衆のマスをアナーキーな破壊行動に向けさせるための駒に使うのが、プロヴォ カトルのメイン機能なのだ。 インドネシアで発生したアナーキーな大規模暴動事件というのはほとんどがそのような構 図に乗った政治戦略的なものであり、暴動という語の本来的な意味である「大衆が自然発 生的に起こすもの」という定義に則していない。大勢の人間が「暴」れて破壊行「動」を 起こすから暴動だと思ってその言葉を使っている日本人は、もっと国語を真剣に勉強しな おしてもらう必要があるのではないだろうか。とはいえ、既に常識化した意味での暴動と いう語をわたしも使うことにする。 5月22日の全国拒否行動を額面通り受け入れて、デモが計画された州は少なくない。2 019年大統領選挙結果がプラボウォ=サンディ組みの大勝になった州は、少なくとも計 画されたにちがいないが、実行されたかどうかは情報が得られないためによく判らない。 警察と地元行政はその呼びかけの裏にあるものを警戒して関係者に対し、行動を執らない よう説得を続けた。地元市民に対しても「内面の浄化をはかるべき年に一度の断食シーズ ンにそのようなことを行うのは何事か」という論調が宗教界中枢部から出され、それに沿 った秩序ある生活を営めという主旨の呼びかけが行政から出されていて、発火物に対する 熱さまし効果は十分だったように見える。 そんな行動が起こる可能性の高い州は次のようなところであり、その多くで今回の選挙結 果が2014年の得票差を上回る数字になっているのは興味深いところだ。 アチェ: 54.4⇒85.6 西スマトラ: 76.9⇒85.9 リアウ: 50.1⇒61.3 ジャンビ: 49.3⇒58.3 南スマトラ: 51.3⇒59.7 西ジャワ: 59.8⇒59.9 バンテン: 57.1⇒61.5 西ヌサトゥンガラ: 72.5⇒67.9 南カリマンタン: 50.1⇒64.1 南スラウェシ: 28.6⇒57.0 東南スラウェシ: 45.1⇒60.3 北マルク: 54.5⇒52.6 (州名:プラボウォ=サンディ組み得票率 2014年⇒2019年) [ 続く ]