「郵便物不配(後)」(2019年06月14日)

ところが、オルバレジームが始まった初期のころに、切手泥棒が全国的に大流行したこと
がある。これは不良郵便配達夫についての考察とはまた趣が異なっているものであり、わ
たしがインドネシアに関りを持つようになったころにはその流行が終わっていたから、わ
たし自身はこの種のニュースに接したことがない。

もちろん似たようなことが稀にであれ、闇の中で起こっているのであれば、郵便物配送の
全ルートで起こる可能性が出て来るわけだが、火のある所には煙が立つのがこの世のなら
わしだから、ニュースのないのは良いニュースという理解をして良いのではないかとも思
う。

インドネシア国有郵便会社も数十年前から郵便切手はフィラテリアイテムという方針を出
し、郵便物には極力ハンコスタンプを使うようになっているから、リスクはミニマイズさ
れているようにわたしには見える。

話では、まったく記録が残されない有象無象の郵便物には切手を貼り、書留のような記録
が残されるものはハンコスタンプが使われるそうで、つまり切手を貼る郵便物には安全保
障がないということだそうだ。


1969年4月12日に、パサルバルのジャカルタ中央郵便局周辺の道路脇に設けられて
いる郵便ポストの投函口から接着剤を塗ったひも付きの鉄を投げ込んで、中にある郵便物
を「釣っている」男が逮捕されたことが報じられた。言うまでもなくその男は、だれかが
投函した切手の貼ってある郵便物を手当たり次第に盗み、切手をはぎ取ってから郵便物は
多分再投函していたのだろう。

切手の貼られていない郵便物がポストから郵便局に運ばれて来れば、郵便局はそのまま処
分したのではあるまいか。古い郵便規則の中に、切手不貼付あるいは金額不足の場合に差
額の二倍を徴収するというものがあり、その精神でこの問題に対応するなら、誰かが差出
人を探して追及に行くようなことは考えにくいから、そんな想像が頭をかすめるのである。
いずれにせよ郵便物が届かないのは明白だと思われる。

郵便物釣りのツールには針金も使われ、先端部分に接着剤を付けて釣るのは同じだった。
そのような作業には明らかに、手先の器用さや慎重さが必要な条件である。インドネシア
では秀でた能力が悪事に使われる傾向が高い、ということが古今往来変化していないよう
にわたしには思える。善悪が相対的であり、絶対的価値観に包まれていないインドネシア
民族文化はいつまで続くのだろうか?

一般人がそんなことをしているのだから、郵便局職員ははるかにやりやすいポジションに
いることを無駄にしない。1969年10月には東ジャワ州マラン市の郵便局でふたりの
職員が逮捕された。その不良職員は、郵便物を差し出すために郵便局に来た客に切手を売
り、その切手が貼られた郵便物を受け取ると、切手をはがして懐に入れ、郵便物はそのま
ま配送ルートに流すという悪事を働いていた。配送ルートの途中で切手の貼られていない
郵便物が見つかれば、ボツにされるに決まっている。

ふたりが特に狙ったのは外国向けの郵便物で、送料が高額だから手に入る切手の額面も大
きいものになる。この場合は名宛先国に郵便物が届かないというストーリーになるから、
インドネシアでという言葉が使えないのだが、もちろん国内宛ての郵便物も餌食になった
から、ご心配は無用だ。

その時代、郵便切手や航空書簡あるいは速達航空書簡の偽造品が盛んに作られた。郵便関
連の諸物資が犯罪のターゲットにされた時代はもう来ないかもしれない。果たして、それ
を喜んでよいのやら・・・・[ 完 ]