「クントガンに想う(終)」(2019年06月14日)

村落生活にクントガンが果たしてきた役割は大きい。それによって融和と調和のある共同
体生活、他者への寛容精神、ゴトンロヨンの精神と活動の歴史が築き上げられていたのは、
決して誇張ではない。それが生み出したローカルデモクラシーや民衆の相互交流をクント
ガンの効用として認めることは、自然なことであるにちがいない。クントガンが呼び起こ
すものは個人のエゴイズムを超えた共同体構成員同士間の結びつきであり、そこに流れる
友愛の情だったのである。


デサ研究者のリザ・ルッフィ氏は、クントガンが歴史の中で果たしてきた共同体の秩序と
調和の建設というのは、そのより深い意義を探るなら、より良い未来を招き寄せることな
のだ、と語る。クントガンが打ち鳴らされる下でひとびとが協力と秩序を培うことで、よ
り計画性のある未来が作り上げられるのである。

サイズ・形・軽さ・簡素さなどの要素が持ち運びを容易にしているため、村内の夜間見回
りなどにクントガンを持って歩くことができる。見回りグループがその道程で鳴らすクン
トガンの音は、村内に危険があるのか、それとも平穏無事であるのかを住民に知らせる広
報なのである。

音の大きさ・リズム・打たれる回数などによって、見回りグループが住民に何を知らせよ
うとしているのかをひとびとは理解する。それは住民のみんなが知らなければならないこ
となのだ。夜が更けて、平穏無事を告げるクントガンの音を耳にする住民たちの幸福感は、
ほかにたとえようのないものになるだろう。

バリでは、クントガンは危険や災害への警戒を呼びかけるために鳴らされるばかりでなく、
婚姻の式典の際にも使われる。バリの村人にとって婚姻は神聖な行事であり、できるだけ
大勢の共同体仲間に知ろ示すのが共同体生活の中で重要なことになっている。


神話と迷信が人間の暮らしを覆っていた時代、クントガンは人間の創造性と創造力の受け
皿となって古代テクノロジーの威力を発揮した。しかし時代の変化とともにクントガンの
機能も変化し、その重要度は低下の一途をたどっている。

たくさんの村でクントガンは姿を消し、ガジェットをはじめとするモダン通信機器がクン
トガンの機能と役割に取って代わった。今やクントガンは村長の家に吊り下げられて、ロ
ーカル権威のシンボルにされている。クントガンが飾られている家にはその共同体を統率
する地位にある人間が住んでいるのだということを、それは示しているのである。クント
ガンを持つ人間の指示命令に、共同体構成員は服さなければならないのだ。

一部のひとにとってクントガンは、想い出とロマンチシズムをもたらす家屋の装飾品だ。
そこには昔の暮らしの懐かしい思い出が込められている。人間の歴史がかつてはたいへん
素朴なしかし有用なコミュニケーションツールと共に始まったことを、クントガンは静か
に物語っているのである。[ 完 ]