「生き返ったスハルトのキャデラック(後)」(2019年07月30日) 前レフォルマシレジームの大統領は権威と地位を象徴する大型車を必要に応じて使ってい たが、レフォルマシ期に入って以来、諸大統領は国民に近付いて一体感を醸成しようとす る風潮の中で、重厚で権威的な大型車の使用を避ける傾向が生じていた。国賓のもてなし には必要であっても、国民と大統領という関係の中では大げさすぎるということなのだろ う。 スハルト大統領も使っていたメルセデスベンツ500SELとS600はハビビ大統領に 引き継がれ、更にアブドゥラッマン・ワヒッからメガワティへと引き継がれてきた。それ をSBY大統領も使ったが、車齢おぼつかないために2008年製メルセデスS600プ ルマンガードに変え、ジョコウィ現大統領はそれを愛用している。 だが車齢12年目に入っているプルマンガードは老体のゆえに故障しがちで、西カリマン タンや東ジャワでの公式行事途中に動かなくなる醜態をさらした。それとは別の話になる が、特に窓ガラスの上げ下げはアキレス腱になっていて、路上走行中に民衆が集まってい る場所を通る際にジョコウィ大統領は窓を降ろして手を振る習慣を欠かさないことから、 大統領官房の公用車メンテナンス技術者の腕が要求されるポイントになっている。メルセ デスベンツ社は5年で新車交換が標準だと述べており、大統領宮殿の関係者の間にもそろ そろ交換する時期ではないかとの期待が広がっているそうだ。 そういう風潮下でのスハルト時代の遺産であるキャデラックフリートウッドブロアムの修 理というのがどういう意味を持つものかは言わずもがなだろう。技術者は大統領官房長官 の許可を得て、その車が動くようにした。公費は一切使わず、官房長官の自費と技術者の 能力がその挑戦を支えた。今現在は大統領宮殿の中をテスト運転している段階だが、8月 17日の式典に出番が設けられることになっているそうだ。[ 完 ]