「セクハラは単なる迷惑行為か」(2019年11月12日) ライター: 刑法典検討専門チーム、ムラディ ソース: 2018年1月31日付けコンパス紙 "Eradikasi Pelecehan Seksual" ハリウッド映画界の著名人物であるハーヴェイ・ワインスタインに関わるセクハラスキャ ンダルを被害者になった数十人のハリウッド女優が暴露したニュースが、2018年1月 10日のコンパス紙社説をはじめ国内外のさまざまなメディアに取り上げられた。それは セクハラ撲滅の戦鼓が打ち鳴らされたことを示すものだ。 ビバリーヒルズで1月7日に行われた2018年ゴールデングローブ賞表彰式の場にレッ ドカーペットの上に集まった全身黒づくめの男優女優たちや多数の他の出席者の連帯行動 がその社会的リアクションだった。その表彰式はセクハラスキャンダルに対する抗議を強 く漂わせるものになったのである。 ジャカルタではいまだに、セクハラ行為に対する苦情は、混雑するトランスジャカルタバ スやジャボデタベッコミュータ電車内で頻発しているような交通機関内の公共空間におけ る女性への性的侮辱に関連付けて行われるだけにとどまっている。その結果、男性と女性 の居場所を分離するというような短絡的反応で問題が終わらされているにすぎない。 セクハラというものは、言葉で、あるいは行為でなされるところの被害者が望んでいない 性的ニュアンスを持つ行為であるという解釈がその現実から引き出される実態だ。それは 普通一般に行われているわいせつ行為であって、他人に不快感を与えるただの迷惑行為で しかないという感覚がその解釈を支えている。 インドネシアを含む多くの国で見受けられるのは、職場での女性に対するセクハラが本当 はもっともっと深刻なものであるという事実だ。被害者側の持つ納得できる理由が女性た ちをして関係当局に被害を訴える勇気と理非峻別の厳格さを失わせていることから、その 実態が明らかにされることが少ない。 被害者女性は、自分に加えられるセクハラへの不服や拒否が常に職場や生活環境における 権利と義務に関連したリスクや不利益につながることを確信しているのである。 < 三つのカテゴリー > 職場における女性へのセクハラは基本的に、相互に関連する三つのカテゴリーを含んでい る。 まず第一がQuid pro Quo(これはあれのため、つまり一種の代償)カテゴリーである。こ のカテゴリーにおけるセクハラは、被害者の容認あるいは拒絶が、たとえば仕事の与え方 の軽重、昇給、昇格の約束などといった仕事面における待遇の条件に混入されるがために、 搾取行為とも見ることができる。 第二は応報カテゴリーだ。このカテゴリーでは、セクハラ行為者が被害者の仕事に関与す るとき、被害者の容認あるいは拒絶にもとづいて加害者が取るべき姿勢を決めている。 第三は敵対カテゴリーで、セクハラを拒絶した被害者に対し、本人の業績に対する不当な 妨害、あるいは本人に圧迫的敵対的または攻撃性に満ちた加虐的侮辱的な職場環境の形成 などの形を取る。(ブロデリック&サリーン、2010年) セクハラ行為の内容は多岐のバリエーションに渡る。性的ニュアンスの見返りを得るため の、誘惑・言葉・ポルノチックな何かを見せる・命令・威嚇・権限逸脱の趣の濃い規制・ 職務上の機能に関わるステータス・等々。行為者と被害者の地位は同一のレベルになく、 通常は同じことが何度も繰り返され、また職務権限逸脱が伴われる。 そのような面にとどまらず、この種のセクハラには被害者女性にきわめて不利な性差を基 盤に置いた不平等な扱いという形の性差別要素が含まれている。侮辱、基本的人権侵害、 恥辱を与え、被害者の自己卑下を導き、尊厳を傷つけ、個人の権利に障害をもたらし、人 格殺人を行い、自分に向けられた悪事と闘わない自分への罪悪感を生み、精神的障害を発 生させ、労働生産性を失わせ、一個人の人間としての名誉を損なうようなものなのだ。 諸外国のセクハラデータの中に、教育環境、雇用の場、職業訓練、大学などで、教官と学 生や学生間、あるいは管理者とスタッフや従業員といった非対等な関係における権力悪用 を伴って起こっているものがしばしば登場するのは実に興味深い。 米国やヨーロッパの大学では、見下しや性的ニュアンスを持つ揶揄やあだ名、体型や衣服 に関する下品なコメント、デートや私的な面会の強要、性的な内容の手紙、性的攻撃など はセクハラに該当している。 < 包括的ステップ > 他の諸国と同じようにセクハラを犯罪にする場合、その本質と被害者が蒙る影響の幅広さ (抑うつ・怒り・無力感)を考慮して、倫理刑法犯罪とは別個のものとして独自のジャン ルが設けられるべきである。インドネシアは1979年女性差別撤廃条約を1984年法 律第7号で批准しているのだから、それが行える状況下にあるのは間違いない。おまけに 女性に対する暴力撤廃に関する国連宣言No.48/104はセクハラが女性に対する暴 力に含まれることを示しているため、他の予防措置と足並みをそろえて刑法・民法・行政 制裁面での法制度化を進展させることが必要なのである。 イスラエルとフィリピンではセクハラに関する法律、イギリスは反差別法、フランスとロ シアは刑法典の中に独立パートが設けられ、米国のいくつかの州法では性差別に関連付け られたり、労働法内の権力悪用に結び付けられている。更にEUでは2002年以来、セ クハラに関する特別指令の検討が行われている。それらのすべてが、セクハラを刑法犯罪 としているのである。そればかりか、民事告訴と行政制裁が追加される可能性すら開かれ ている。 性的なことがらへの権力悪用と差別的で取引可能な職場環境や生活環境を作り出すセクハ ラを闇の中に隠されたままにしておいてはならない。特別の先制的・予防的・抑止的ステ ップが行われなければならない。女性人権国家コミッションと女権保護団体はジェンダー 平等と繊細な感受性を根幹とする弛まない社会教育を実施して、被害者に事件を訴える勇 気を持たせ、更に告発者への保護を与えなければならないのである。 そのためには、被害者のための行動ガイドブックが必要になる。それとは別に、国会に対 して性暴力解消法案の早期成立を迫らなければならないことはたいへん重要なポイントな のだ。