「農業を滅ぼすニュータウン(前)」(2019年11月26日)

ブカシ県中央チカラン郡ブスッスカサリ部落はゴーストタウンになった。人が住んでいる
最後の家で引っ越しの荷造りが行われているのを見たウディンさん54歳が、顔なじみの
その家に寄って引っ越しを手伝った。

ウディンさんもその村で生まれ育ったのだが、十年前に引っ越した。それほど遠くない場
所に土地を買って家ごと引っ越したそうだ。家は元あった場所から大勢で新しい場所に移
した。もちろん引っ越し先はニュータウン建設用地の外だ。ニュータウン開発がブスッス
カサリ部落を消滅させたのである。

ブスッスカサリ部落は竹やぶとジャンブアイルの木がたくさんあり、落ち着いた潤いのあ
る土地柄だ。しかし人気の絶え果てた部落は既に温かみを失ってしまった。残された家屋
は南京錠で閉じられ、子供のサンダルが埃だらけになってテラスに転がり、古くなった鋤
が家の隅に置かれ、牛とヤギの家畜小屋も獣の匂いはなく、古い空き家になっている。

この部落の周囲は数千ヘクタールの開発用地に取り囲まれてしまった。高級住宅地区と工
業団地が作られてニュータウンの一部になる予定。メイカルタとデルタマスだ。


かつてこの部落は農業と家畜飼育で栄えていた。住民は水田・畑・竹林・養魚池などを持
ち、広い土地を運営していた。ところがニュータウン開発計画の中にある鉄道敷設計画が
この部落の運命を変えた。さみだれ式に行われた土地買収で、住民はバラバラと引っ越し
ていった。

開発会社は、ひとつのエリアの土地を一斉に買うことをせず、一二軒に声をかけて買うと
いう手法を使ったのだ。売った世帯は引っ越して、その土地を開発会社が整地するという
プロセスが長い期間をかけて進められ、住民は徐々に徐々に減少して空き地が増えていく
という現象が住民の心理に強い影響をもたらした。

部落民のほとんどは引っ越したとウディンさんは述懐する。かれは小作農だったから自分
の土地は家のあるところだけであり、開発会社がそこを7百万ルピアで買い取った。それ
で新しい場所に土地を買い、家を移したのである。

ブスッスカサリ部落からそれほど遠くないパルンルサン部落では、11世帯が相談して立
ち退きに応じないことを決めた。しかし周囲は整地が進められていて、水田は干上げて埋
め立てられ、丘も畑も切り崩されて平になっている。かれらの住んでいる土地は陸の孤島
と化した。町へ出るには踏み分け道があるだけ。もちろんオートバイでそこを通っている
のだが。

5年前の2014年ごろ、この一帯の土地相場は平米当たり20万ルピア台だった。それ
が今では1百万ルピアになっている。開発会社が平米80万ルピアで買値を提示してきた
が、5百万ルピアでなければ売れない、と突っぱねていることを11世帯のひとりは物語
った。その土地に住み続けたいかれらは、土地を開発会社に売ってから、開発会社が整え
た土地を開発会社から買うことになるだろう。そうなった場合、80万や1百万ルピアで
買えるわけがないことをかれらは予想しているのだ。[ 続く ]