「沈没船を観光資源に(後)」(2019年11月26日)

海軍がその船を運搬船として管理を放棄してから、ヨグヤカルタ考古学館がその奇妙な成
り行きに首をかしげて、ギリラジャの沈没船に対する本格調査を開始したのである。ヨグ
ヤカルタ考古学館はそれが物資運搬船であると考えなかった。長さ71メートル、幅8.
3メートル、高さ1.7メートルで甲板の低いその艦形から、調査班リーダーはこの艦が
魚雷艇だったのではないかという推測をしている。

インドネシア語記事には「高さ1.7メートル」とだけ書かれていて、それがどの部分の
ことを述べているのかよくわからない。それが喫水高だとするとかなり平べったい船のよ
うに思われるし、艦体のサイズも魚雷艇にしては大きすぎるような気もわたしにはするの
だが・・・。


海軍が危険物除去を完了してからだいぶ経ってヨグヤカルタ考古学館が本格調査を開始し
たとき、その艦内からは普通の沈没船に必ず見られる諸道具のほとんどが消え失せていた。
軍が運び去ったのか、地元民衆あるいは外来者が持ち出せるありとあらゆるものを不法に
運び去ったのかは判然としないものの、調査の困難さは最大限になっていたのである。な
にしろ、艦内の生活状況もわからなければ、艦のアイデンティティを示すものさえ見つか
らないのだ。

海軍は艦体に取り付けられてあった銘板を回収していた。円形の大型銘板には
「Maatschappy Voor Scheep En Werktuigbouw Fyenoord 455-456 1914 Rotterdam」とい
う記載があり、それは製作所が付けたものであってオランダ海軍が艦名表示として付けた
ものではないように思われる。しかしながら、その艦の呼称がなしではすまないから、製
作者であるフェイェノールFyenoordがその艦の名前として現在使われている。

フェイェノール造船所はオランダのロッテルダムで1854年に設立された古い会社であ
り、多くの客船・商船・タンカー・軍艦を作った。軍艦については、初代と第二代の巡洋
艦デロイテルHNLMS De Ruyter2隻、駆逐艦3隻、潜水艦7隻、フリゲート艦6隻、掃海
艇3隻を建造している。

沈没艦フェイェノールの状態は6割がたが破壊されていた。船首が裂けているが船腹は完
全であることから、沈没原因として空爆・機雷被爆・あるいは岩礁にぶつけた自損、のい
ずれかではないかと調査班は推測している。

スムヌップ県ではこの沈没艦を観光客誘致の目玉にしようと考えて、調査班が艦の由来と
沈没の経緯を調べ上げてくれるものと強く期待している。何しろ、沈没艦の由緒来歴が不
明では、観光客も見物しに来ないだろう。


ところがそのような、沈没船を観光産業のために利用したいという政財界の声に対して、
海洋漁業省が自制を求めた。トゥランベンのリバティ号がその引き合いに出されたのであ
る。海中資源の振興と保護を担当する専門家は、沈没船を持続的に保存し保護しようとす
るなら、人間の接近を最小限にすることが重要だと語る。

周囲の海水に酸素が増えれば、金属の酸化反応が強まり、錆が起こって腐食が進む。実際
トゥランベンのリバティ号の船体は、ダイビング客の増加に合わせて腐食の度合いが進ん
でいることが報告されている。もう一つの問題は、人間が周辺を徘徊することで自然が作
り出している海水の動きを変化させる点だ。リバティ号は自然が作り出したバランスの上
に乗って現在の位置に引っかかっているのだが、人間がそのバランスに変化を起こさせる
懸念があるというわけだ。リバティ号のバランスが崩れて動き出せば、船体は傾斜した砂
地をさらに海溝に向かって滑り落ちていく可能性が高い。そうなれば地元にとっての観光
資源は失われてしまうことになるだろう。

沈没船や沈没航空機の残骸を観光資源に使おうと考えている地方自治体は、すべからくそ
れらの要素を検討した上で観光行政を推進していただきたい、というのが専門家の忠告だ
った。

トゥランベンのダイビング観光はそれに応じて、人数制限と予約制を行うという方針が出
されていたようだが、昨今ではアグン火山の噴火警戒ステータス上昇に伴って、ダイビン
グ観光は閑古鳥が鳴いているありさまになっていることが報告されている。[ 完 ]