「語順のややこしいインドネシア語(1)」(2020年01月06日)

インドネシア語の学習者は、修飾関係にある単語の並びがたいていの場合日本語と逆にな
る法則に苦しまなければならない。修飾される語Diterangkanが前に置かれ、修飾する語
Menerangkanが後にくるというD−Mの語順が標準的なインドネシア語文法なのである。
修飾する語が形容詞であっても名詞であっても、その語順は維持される。

スエーデン語インドネシア語辞典編者で、スエーデンでインドネシア語学界の第一人者に
なっているアンドレ・モレン氏は、昔の苦労を思い出してこう書いている。

インドヨーロッパ語族の言語環境下に育った者にとって、インドネシア語の語順はインド
ネシア語学習の大きい障害になる。たとえば形容詞が名詞の後に置かれるという法則が自
然に身に着くようになるまで、時間をかけなければならない。口から発するべき言葉は
bola merahやcewek cantikであって、本能が頭の奥でmerah bolaやcantik cewekと叫んで
いるのを抑えつけてそれを実行しなければならないのだ。ところがそのフェーズを乗り越
えて、頭の中や舌の先にその語順が自然に湧き出てくるようになると、今度は例外の出現
に悩まされることになる。


かれはきっと、インドネシア人自身が自国語の法則を破っておかしな語順を使っているこ
とが腹に据えかねたのかもしれない。インドネシア国内のあらゆる場所で好まれ、どこで
も手に入る飲み物、つまりアイスティーをインドネシア人はなんとes tehと言っているの
だ、とかれは指摘した。かれの議論はこうだ。

あなたもきっとわたしと同様に、喉の渇きからリフレッシュさせてくれるその飲み物を、
ヌサンタラのレストラン・食堂・ホテル・ワルンで何百回あるいは何千回も注文したに違
いあるまい。だがしかし、どうしてその名はes tehなのか?teh hangat,teh manis,teh 
pahit,teh tawarなどと言っているように、どうしてteh esと言わないのか?

es tehと言うのなら、es dawetやes cendolなどのデザート類が存在しているように、そ
れは茶を使った冷たいデザートと考えるひとがあって当然だろう。だから氷の入った冷た
い飲み物である紅茶というのなら、teh esというのがインドネシア語として正しい語順で
はないのだろうか?更にはそれに輪をかけて、es kopiなる代物も世の中にどんどん勢力
を拡大しているのだ。

es tehと同じくらいポピュラーな飲み物にes jerukがある。これはきっとes tehの仲間と
して誕生したように思われる。一方で、雨が降ったり、夜風が寒いときには、jeruk 
hangatが好んで注文される。ミカンの搾り汁が冷たいのと温かいので国語の原則がひっく
り返るのはいったいどういうことなのか?


確かにインドネシア語のDM法則という文法構造から見れば、teh esという表現の場合は
tehのひとつの種類を述べており、es tehであればそれはesのひとつのバリエーションで
あるということになるはずだ。

飲用水に氷塊を入れた飲み物はair esと呼ばれるのが普通であり、es airという名称を耳
にした経験はない。コップの中味が氷塊だらけで、水はほんの少ししかなくとも、それは
常にair esと呼ばれている。


アンドレ・モレン氏はインドネシア人の英語好きに鑑みて、その現象は英語のice teaや
ice coffeeからの影響ではないかと推測している。現にかれはインドネシアでjus jeruk
(オレンジジュース)を注文しようとした人が往々にして体験する困難についても触れて
いるのである。

ヌサンタラのいずこであれ、レストラン・食堂・ホテル・ワルンでその飲み物を得るため
には、あたかも外国語を使わなければ実現しないかのようだ。jus mangga,jus pepaya,そ
の他のジュース類はその言葉通りで容易に注文できるというのに、そしてまたorange 
juiceと言えば簡単に手に入るというのに、この現象は実に奇妙としか言いようがない。

賢明なる読者諸氏が「そりゃ信じられない」とおっしゃるのなら、今度の週末の夜にでも
どうぞお試しあれ。もしそれがスムーズに行ったなら、その次の挑戦は飛行機の中でお試
しを。絶対にトラブルんですぞ![ 続く ]