「語順のややこしいインドネシア語(3)」(2020年01月08日)

インドネシア語ウィキでは、es tehとteh esが同じものとして扱われている。つまり冷た
い紅茶はteh esであり、別名es tehだというのだ。KBBIにはesの項目にもtehの項目
にも、その二語の組み合わせはまったく出現しない。

一方、インドネシア語に翻訳された外来語の中にはkaki limaやkembang kolなどがある。
カキリマの詳細については:
http://indojoho.ciao.jp/2018/1224_1.htm
http://indojoho.ciao.jp/2018/1226_1.htm
http://indojoho.ciao.jp/2018/1227_1.htm
http://indojoho.ciao.jp/2018/1228_1.htm
に説明されている通りだ。英語のfive feetがご丁寧にDM法則で翻訳されたのだが、実
は数詞は例外的にMD法則に従うことになっており、頓珍漢な結果になってしまった。


kembang kolというのはカリフラワーのことで、別名bunga kolとも言う。アンドレ・モレ
ン氏はこのインドネシア語訳がDM法則に従っていないことから、おかしいと批判してい
る。

bunga kolはKBBIのbungaの項目に出ており、語義はkembang kolとなっている。kem-
bangの項目に出ているkembang kolは、もっと長く、詩的とも言える説明が添えられてい
る。引用すると:
sayuran berdaun besar memusar, gumpalan perbungaannya padat membongkol membulat 
seperti bola, berwarna putih atau krem, pada gagang pendek mendaging; blumkol
blumkolとはオランダ語のbloemkoolを発音通りにインドネシア綴りで書いたもので、語源
がそこに示されているわけだ。花を意味するbloemがインドネシア語に翻訳されてbunga/
kembangと代えられたものの、語順はそのまま据え置かれたためにDM法則にそぐわない
ものになっている。

アンドレ氏はkol bungaあるいはkol kembangという文法の原則に合致したものに直すべき
だと提唱しているのだが、現実にはkolがインドネシア語のkubisに翻訳されてkubis bunga
という国語原則に合致した単語が作られている。結局カリフラワーのインドネシア語は
bunga/kembang kolとkubis bungaの二本立てになってしまった。これもes tehとteh esの
両立に似た現象であるように見える。

ところで、kubisをインドネシア語と書いたが、これも元来は外国から入って来た言葉だ。
その野菜がインドネシアの在来種でないのだから、在来のユニークなインドネシア語があ
ったとは考えにくい。kolが元々オランダ語であるとすれば、kubisは元々英語だった。英
語はcabbageであり、その発音がインドネシア人の耳に、われわれにとっては似ても似つ
かないkubisという音に聞こえたようだ。

だが頭の中でそのふたつの音を並べて反芻し続けているうちに、あなたの脳の中にはその
両者が結び合わされてくるようになる。そのとき、あなたの脳はきっとインドネシア脳に
なっているにちがいない。

bunga kolは外国語(借用語)として扱われ、kubis bungaはインドネシア語として扱われ
ているというコメントが可能ではあるにせよ、そんなことに思いを馳せながらパサルでカ
リフラワーの品定めをしているお母さんたちはまずいないだろう。かの女たちの頭の中で
は、どちらもが正真正銘のインドネシア語単語なのである。


外国語を音で取り込むのはたいした不都合にあまり遭遇しないようだが、とはいえ、既存
のインドネシア語と同じ発音の外来語がそのまま取り込まれて語義を増やしていくのが本
当に適切な在り方かどうかはやはり疑問が残りそうだ。かと言って、外国語を意味の似通
ったインドネシア単語に置き換え、国語文法法則を守ればそれでよいかと言うと、そう簡
単にいかないケースももちろんないわけではない。[ 続く ]