「金持ち」（２０２０年０３月０６日） ライター： 言語オブザーバー、サムスディン・ブルリアン ソース： ２００６年９月８日付けコンパス紙 "Kaya" かわいそうじゃないか。先月半ばの大統領国家演説以来、みんなmiskin（貧乏な）の話ば かりしている。orang kaya（金持ち）たちもそこまで無視されれば、きっといい気がしな いだろう。だからバランスを取るためにkayaの話をしよう。 kayaとは何か？辞書には財産をたくさん持ち、お金をいっぱい持っていると記されている。 その心髄はpunyaだろう。だからオランカヤorang kayaはorang berpunyaやorang berada とも呼ばれるのである。 話では、カヤというのは快適なものだそうだ。財産が増えれば増えるほど、金で買えるも のも増加する。世界中のほとんどすべての人間が富を追求している。そのメリットは鉄格 子の入った丈の高い分厚い壁に囲まれた秘密の部屋で黄金やダイヤを掌で味わうことがで きるだけでなく、快適さ、影響力・人気・魅力的な美女・地位・時には他人の命まで手に 入れることができる。ランカヨRangkayoの称号は富裕者を意味するばかりか、高い社会的 地位をも意味しているのだ。富と権力は親密な友のように、共に手を携えて歩むのである。 英語でもrichとその親族一同(wealthy, well-off, affluent, prosperous, loaded, moneyed, well-to-do)はすべて、所有物が満ちあふれていることを意味している。おまけ にrichの副次語義である「（食べ物の）berlemak」（訳注：日本語では滋養に富む）は多 分その昔、金持ちなら脂ののった食べ物（すなわち美味な物）をいつでも食べることがで きたのに比べて、貧乏人は普通の日々をあまり栄養のない食べ物で過ごさなければならな かった事実に関係しているのではあるまいか？ 古代から富は精神分裂的反応を引き起こしてきた。自分自身を取り囲んでいるなら、それ は善いものであるが、それが他人にくっついているなら、良くないものなのだ。それは単 なる強欲や嫉妬から来る感情の帰結でなくて、１万年前に農業文化が興って以来、既に２ 百年を経た産業革命を通して、あらゆる富の基盤は土地にあったという事実に根差してい る。土地の総計は一定であるがために、富も常にそれほど高くない一定の限界を持つ。そ の結果、他人より多くの富を持つ者が出れば、それは自動的に不足をかこつ者を出現させ るのである。言い換えるなら、富が貧困を作り出し、大富豪が大貧民を作り出すというこ とだ。 それがゆえに、農業社会に興ったあらゆる偉大な叡智・哲学・宗教は、いかに合法・公正 ・正直に得たものであっても、多すぎる富は不公正の一形態であると位置付けている。そ れどころか人間は、その不公正とされている状態を戦争という手段で逆転させることにや ぶさかでないことを歴史は証明している。他人の土地を暴力で奪うのだ。支配する土地が もっとも広い国がもっとも豊かな国となる。 だがちょっと待て。インドネシアは慌てて上下左右の国々を攻めて豊かになろうとしなく てもいい。そんな方法よりはるかに先端的で文明的なものが既に作られているのだ。それ は開発。 工業化時代に入って、富は土地から離別した。その最重要な帰結は、ユニバーサルな富の 限界がきわめて高いレベルに上昇したため、ひとは他人を貧しくさせずに豊かになれるの である。他人の土地を奪わなくても良いのだ。富の蓄積という、他人を富から引き離すこ とを意味していた表現は既に過去のものになり、新たな富の創造、他人をもっと富ませつ つ自分も豊かになるという意味に変化した。それが開発の核だ。開発がなされた豊かな国 々はそれを行ったのである。そんな国々の多くは、土地が猫の額程度であっても国民は豊 かな生活を享受している。 カヤはもはやpunyaの同義語ではない。国連の開発プログラムによれば、開発とはチョイ スを広げて全体の福祉を向上させるプロセスだ。焦点が当てられているのは、ひとが何を 自己の周囲に集めたかでなく、生きる場でより多くのチョイスが用意されているという形 態における、ひとの内面にある自由と能力なのである。だからすべての富をなげうつ選択 をするひとはミスキンではない。仕方なくミスキンになっている以外に何のチョイスも持 たないひとだけが、真のミスキンなのである。 国民はたいしてお金を持っていないが、食べ物は安くて美味しいベトナムのような国があ る。あるいはスリランカのように、金を稼ぐのはむつかしいが国民はだれもが高度な教育 を受けている国もある。その両国とも、国民は長生きだ。一方で、金はたくさんあっても、 国民にとって教育・食べ物・保健サービス・ライフスタイルなどのチョイスは狭く、大人 国民の半数は自由に旅行もできないような国もある。どっちの国民が本当に豊かなのだろ うか？
