「東インド植民地警察(5)」(2020年03月16日)

これを見るとめったやたらと多いように感じられるだろうが、当時のヨーロッパの警察職
制はたいていの国で軍隊の階級を維持させて設けられていたようだから、それが普通の感
覚だったということなのだろう。現在のインドネシアの警察階級は四軍制度時代と同じよ
うに軍隊の階級を引きずっている。ただし名称は現代警察制度特有のものが使われていて
将校・左官・尉官・下士官・兵卒などといった区分からは離れているものの、現代警察の
シンプルな職制に慣れているわれわれには、ややこしくて仕方ない。


律令制の時代に国務をつかさどった省や寮では官職のヒエラルキーとして「かみ、すけ、
じょう、さかん」が用いられ、寮はそれらの和語に対して頭・助・允・属という漢字が当
てられたそうだから、明治の警保寮の職制もそれに倣って上のリストの1から10までが
定められた印象が強い。

11から下は警視・警部・巡査という区分名称が核になっていて、フランス語の場合はそ
れに対応するものがCommissaire - Commandant - Inspecteur - Gardien de la paix、英
語ではSuper intendent - Inspector - Sergeant - Constableとなっているらしいので、
どうも英語の方に近い印象をわたしは受ける。しかし日本の巡査という呼称がConstable
にも、ましてやGardien de la paixなどという名称とはどうひっくり返しても結びつきよ
うがないとしか思えないのである。

警察の主要機能のひとつとして、市民の安全と市中の治安を守るためにパトロールを行う
職務がある。その職務に当たる警察末端の要員を日本では最初「巡邏兵卒」と呼んだそう
だ。つまりパトロール兵だ。そしてパトロールという任務には巡邏査察という名称が与え
られた。それに従えば、巡邏兵卒が数人グループで巡邏査察を遂行するという用語法にな
る。ところがそのうちに職務名称が人間を表すようになって、巡査という名称が階級およ
びその階級に属す人間を指すようになった。

つまり巡査という呼称を見る限り、市民生活の真っただ中で住民の暮らしの安寧秩序を維
持するために社会に密着して巡回パトロールを行う現場警官の機能がそこに凝縮された名
称であるという事実にわれわれは思いいたることになる。警察機構末端構成員にそのよう
な名称を与えた国は日本くらいしかないのではあるまいか。

その言葉は現代日本で階級呼称としてのみ残され、ひと並びに職務としては死語になりか
かっているようにわたしには思われるのだが、間違っているだろうか?「警察を呼べ。」
「警官を呼ぶぞ。」という言葉は頻繁に耳にするが「巡査を呼ぶぞ。」という言葉はもは
や耳にすることがないようだ。


東インド植民地警察に話を戻そう。
ちなみに現代オランダの警察階級は次の通り。( )内は対応する英語階級。
Eerste Hoofdcommissaris (First Chief Commissioner) 
Hoofdcommissaris (Chief Commissioner)
Commissaris (Chief Superintendent)
Hoofdinspecteur (Superintendent)
Inspecteur (Inspector)
Brigadier (Sergeant)
Hoofdagent (Senior Constable)
Agent (Constable)
Surveillant (Police Patrol Officer)
Aspirant (Police Trainee)
[ 続く ]