「プレマン」(2020年03月24日)

ライター: 語義探究者、サムスディン・ブルリアン
ソース: 2015年7月25日付けコンパス紙 "Preman"

プレマンpremanがオランダ語のvrijman、つまり英語のfreemanに由来していることはだれ
でも知っている。自由な人間という意味だ。ところが、プレマンとはpre-manつまりpra 
manusiaだという説を唱える者もいる。面構えや振舞いが人間以前の猿人のようだから、
というのがその理由だ。要するにエテ公族の人間だと言っているのだ。この説はちょっと
わざとらしい感があり、典拠が示されないかぎりは相手にしなくていいだろう。

ヨーロッパでfreemanは長い歴史を抱えている。生まれてから死ぬまで個人の社会階層が
定められていた中世の固定的な王制社会に、厳格なヒエラルキーで区分しきれない集団が
存在した。村落部の中で私有地を持つ農民層は、それがゆえに領主や権力者の思うがまま
に扱われなかった。都市部にも商人や専門技能を持つ工人層がおり、上位階層の言いなり
にならなかった。領主や貴族の土地を耕す農奴やかれらに仕える奴隷serfは主従関係の中
にあったが、そんな隷属関係の外にいる者たちを指してfreemanという語が使われた。

freemanの中には、かなり自由に生き、自立した国民として認められたために、政治的権
利をある程度まで与えられた者もいる。

奴隷より半ステップ上と見られていたそのfreeman階層は次第に経済的なパワーを持つよ
うになる。後にヨーロッパに出現するミドルクラスの基盤を作ったのはかれらであり、つ
いには貴族制を崩壊させ(断頭処刑でそれを行った国もある)て民主的社会システムを生
み出した。その民主的社会システムこそが、国家リーダーがそうであるかどうかは別にし
て、今や世界の諸民族諸国民の目指す、あるいは維持するべき基本コンセプトになってい
る。言うまでもなく、freemanを敵視する階層もあった。都市部では成功したfreemanが
bourgeoisと呼ばれた。bourgとはMiddlesbroughやHamburgなどの地名の一部についている
語と語源を同じくしている。カール・マルクスがこの階層、つまり生産財所有者に対して
持った意見をわれわれはみんな知っている。インドネシア語borjuisは今でも、自分より
豊かで繁栄している相手に対する独特の罵り言葉として使われている。


ヌサンタラでは昔から領主や貴族などの支配者層に属さず、かといって王やスルタンなど
の支配者に絶対服従する一般民衆にも属さないひとびとがいた。かれらは一般民衆から一
目置かれたり畏敬されるジャゴアンjagoanやオランクアッorang kuatだ。かれらはよその
集落を襲って強盗略奪をはたらいても、自分の集落がよその強盗略奪者に襲われると自分
の身命を賭して集落と住民を守った。悪漢兼英雄なのである。

よその集落のジャゴアンによる侵略から自分の集落を保護するために、かれらは自分の集
落の住民から保安を名目にした金を取り立てた。一種の組織暴力犯罪だ。領民が平穏で繁
栄することよりも、領地が平穏であることの方を重要視する領主たちにとって、この種の
ジャゴアンの存在はたいへん有用なものだった。領民が公正や自由を得ることよりも、領
地支配の永続性の方がかれらにはずっと大切なことだったのだから。

大多数大衆の自由などでなく、自分の自由を得ることの重要性というポイントは、ヨーロ
ッパのfreemanの歴史にも共通性を見出せるにちがいあるまい。ジャゴアンたちにプレマ
ンの語が冠せられることへの自然さがそこに見られる。ただし、職業や専門性の違いがも
たらす犯罪性の有無が、premanとfreemanの語感を異なるものにしている。freemanは専門
性を有し、社会生活に貢献する生産活動をもっぱらにしている一方、premanは筋肉と刀剣
で他人の生産物を奪う、社会の寄生虫なのだ。


公的プレマン組織の一部は警察や軍隊に協力して市場・オフィス街・商店街・バスターミ
ナルなど種々の公共エリアの治安と秩序を維持する活動を行っている。そこでは、国民の
血税で養われている国家の公的保安機構が責任の一部を外注してプレマン組織に分与し、
そのプレマン組織を地元に住む国民が(仕方なく)養っているという構図が生じている。

ユスフ・カラ副大統領がプムダパンチャシラの全国大会でインドネシア社会におけるプレ
マンの機能を賞賛したことがあった。自分のカンプンをよそのカンプンがもたらす脅威か
ら保護することを基本コンセプトにしているのが歴史的由来であるために、プレマン組織
というのは種族的紐帯がきわめて強い性格であるのが普通だ。

大陸間での言葉の移動が、「所変われば語義変わる」の話になった。vrijmanがpremanに。
ヨーロッパからインドネシアに。自由独立市民からやくざジャゴアン、強盗の親戚である
アーバンファイターにして組織犯罪者に。デモクラシー闘争家にして人間の対等と平等を
奉じるユニバーサルな自由の守護者から治安秩序維持の傭兵、民衆が怖れているのに国家
保安機構はそれを放置して手をつなぎ合い、副大統領が賞賛し、超デモクラシー的諸計画
を実施したい政党が価値を認めて必要としているものに。