「高品質茶は外国で飲め」(2020年07月13日)

インドネシア産の最高に美味な茶と世界で評されているものを飲んだことがあるだろうか?
実は、インドネシア産で世界有数という高い評価を得ている茶をインドネシアで飲むのは
きわめて困難なのである。

スマトラはジャンビ州クリンチKerinci県カユアロKayu Aro郡の茶農園で産する茶葉が世
界最高クラスのひとつという定評を得ており、植民地時代にはオランダ王国のユリアナ女
王とヴィルヘルミナ女王の愛好品になっていた。


あるときわたしはジャカルタで農産物エキスポを訪れ、たまたまそこに展示されてあった
カユアロ茶を買って飲んだことがある。確かに並みの茶とは異なるうまさが感じられた。

その展示場の案内係に、カユアロ茶はどこで買えるのかと尋ねると、答えは「全部輸出さ
れているので買えません。」というものだった。だいぶ後になって8割が輸出という新聞
記事を読んだが、いったいどちらが本当だったのか。ひょっとしたらそのカユアロ産茶葉
の2割は、カユアロ茶と銘打たれることなく、どこのだれとも知られずにどこかのポット
に投げ入れられる生涯を歩むものたちなのかもしれない。

オランダが東インド植民地で大量生産させた茶やコーヒーは、東インド原住民の常用飲料
にならなかった。今でこそ、インドネシア人のライフスタイルに茶やコーヒーは確固たる
地位を築いているが、それはほんのここ十数年のことだ。


2014年11月5〜7日にコンパス紙が全国12大都市の住民705人から電話インタ
ビューで集めたデータは茶を飲む習慣を身に着けているひとが50%を下回っていること
を示している。
質問:あなたは茶を好んで飲みますか?
回答:
はい、習慣になっていますので 48.9%
はい、健康に良いので 18.2%
はい、活動のための元気が湧いてくるので 11.2%
はい、その他の理由 1.3%
いいえ、茶はきらい 19.9%

最高品質の茶は産地で老若の茶摘み娘たちが堪能しているという話だ。摘まれた茶が加工
されて良品ができれば、船に積み込まれる。一級品にならなかったものが国内市場に回さ
れる。

いや、元々非一級品である下葉や茎および茶でないものが混ぜられたローエンド品の方が
国内市場の大きい部分を占めている。そんな茶を飲んでも、だれもおいしいとは思わない。


ヌガラカナアンの茶農園を所有しているPTカベペチャクラKabepe Chakra社は事業の特
殊化を図った。ホワイトティ―、グレイドラゴン、煎茶、粉茶、玄米茶などが同社の主要
製品レンジだ。チャクラ社の年間生産量1.2万トンの85%が輸出され、15%が国内
市場に流される。

チャクラ社製ホワイトティーはイギリスのリプトン社が買い上げて、Chakra Silver Tips
という商品名で売られており、またバンドン郊外のチウィデイCiwideyにあるデワタ茶農
園で産するグリーンティ―はDewata Grey Dragonの名を冠してリプトンの商品ラインナッ
プに連なっている。リプトンがヨーロッパで販売している商品バラエティの中にsencha 
Indonesiaという説明書きが見られたら、それはチャクラ社が輸出したインドネシア産の
グリーンティ―が使われているものなのである。

ヌガラカナアン茶農園のエステートマネージャー氏は取材を終えたコンパス紙記者を歓待
してくれた。グリーンティ―・煎茶・ブラックティ―・ウーロンティ―を淹れて、供して
くれる。かれが語るには、その茶を産する茶農園の泉で汲んだ水が、茶の味わいを最高に
するのだそうだ。

インドネシアの茶農園は11州に散らばっているが、その8割が西ジャワ州にある。西ジ
ャワ州からの輸出で気を吐いている茶葉生産者はチャクラ社の他にも、マラバルMalabar、
バッブトンBahbutong、タロオンTaloonにある。輸出市場に深く進入するための条件は製
品の品質だけではない。消費者への安全衛生、労働者搾取のないこと、環境保護に努めて
いることが必須条件になっている。

インドネシア国民の茶葉年間消費量は一人当たり3百グラムでしかない。そこには、茶の
クオリティに関する国民的な無知無理解もからんでいる。先端にできる新芽と上部の数枚
が、そしてそれらの精粗が良質の茶を生み出すことに関わっているというのに、硬く粗い
部分が多量に混ぜ込まれるために茶の良さを失わせている。ローカル市場で流通している
それらの廉価茶は消費者に茶の真のうまさをもたらしてくれない。

国内消費が伸びないのと反対に、国際市場をにらんでいる輸出向け茶製造者の努力によっ
て、輸出は上昇傾向を見せている。茶葉の大生産国であるインドネシアの茶消費動向を見
る限り、植民地時代と似たような現象がいまだに継続しているように見えるのを避けるこ
とができない。