「米作農民哀歌(1)」(2020年10月26日)

西ジャワ州スバンSubang県パマヌカンPamanukanの農夫ミハンさん57歳はもう三十年間、
1ヘクタールの土地で稲を栽培している。収穫期にはだいたい5トンくらいのモミ米が得
られる。ところがかれの暮らしぶりは一向に向上しない。妻と7人の子供が一緒に住んで
いる家は床面積が42平米しかない。であるにもかかわらず、壁は未完成で、窓もはまっ
ておらずトタンで覆ってあり、床はセメントを流しただけの状態だ。

客間にはテーブルと椅子が5脚置いてあるだけで、テレビも他の高額商品も見当たらない。
「この家を建て始めて、もう7年経ちました。いつまで経っても完成しません。収穫期が
来るたびに、家のどこをやろうかと計画するのに、その資金ができないんですよ。モミ米
を売って手に入る金はほんの少しだけ。わたしら一家が食べて行くのと、次の作付期のた
めの農作業に必要な分を引いたら、何も残らないのです。」

ふたりの子供は大学への資金がないために進学をあきらめた。もうひとりの子供も高校を
中退せざるをえなかった。毎日の食費さえまかないきれていない、とかれは言う。


そこから百メートルほど離れた場所に建っているコメ仲買人の家とはきわめて対照的だ。
仲買人の二階建ての家は床と壁にタイルが貼られており、扉と窓はチーク材が使われてい
る。家の中には24インチテレビとソファセットが置かれていて、クッションはたいへん
ソフトで心地よい。

家の裏手にはパラボラアンテナが設置され、左手にはキジャンカプセル1台とトラックが
2台ある。右手にはコメを天日干しするための40平米の乾燥場が設けられ、脱穀機が1
台置かれている。

十数人のひとびとがモミ米をトラックから下ろし、乾燥場に広げ、あるいは脱穀している。
いやそれどころか、ほぼ2時間置きくらいにトラックが数台やってきて、農民から買った
モミ米を下ろしている。男たちのひとりは、ここのボスは一日に未乾燥モミ米を40〜6
0トン買ってると語った。だがボスの名前は言えないそうだ。


農夫とコメ仲買人の生活クオリティや繁栄度合いの差は、かれらの間でだれもが認めてい
る事実だ。それはある地方でだけ起こっている状況なのでなく、全国的に同一傾向が見ら
れるのである。

コメの価格を生産者である農民が決められず、農民のコメ販売価格が仲買人によって決め
られているという仕組みがその裏側に存在している。ジャカルタのチピナン米中央市場
Pasar Induk Cipinangで米価格が暴落しているという理由をはじめ、さまざまな理由で仲
買人は農民のコメ販売価格を抑えに抑えるために、農民にとっての理想価格から大きく下
回ることになってしまう。

現実問題として、農民が生産した未乾燥モミ米の100kgが乾燥モミ米になれば63k
gまで減少し、モミ殻を落としてやっと56kgのコメが得られるのだ。ジャカルタのチ
ピナン米中央市場でコメのキロ当たり価格が2,300ルピアであれば、100キロの乾
燥モミ米の売値は144,900ルピアにしかならず、100キロの未乾燥モミ米なら1
28,800ルピアしか得られないのである。その一方で、水田から乾燥場への運送、脱
穀作業、仲買人倉庫からチピナン市場までの輸送等の諸経費はクインタルkuintal当たり
2万ルピア、キロ当たり200ルピアというのが平均値になっている。

しかし1985年にパマヌカンでコメ仲買の仕事を始めたサディさん43歳は、この商売
が濡れ手で粟なんてとんでもない、と語る。
「そりゃコメ商売で利益を得てますよ。でなきゃ食っていけない。でもね、その利益なん
てたいしたもんじゃない。ひとを雇って働かせてるんで、人件費がかかります。ときには
資金が底をつくことさえある。そんなときは農夫に借りを作ります。チピナンにコメを運
び込んで金をもらってから借を返すんですよ。」

コメ仲買人のビジネス方法に対する対抗手段を農夫は持っていない。スバンでは未乾燥モ
ミ米がキロ当たり1,140ルピアにしかならない。乾燥後でやっと1,300ルピアだ。
その価格は下がり続けてそこまで来ている、と農民たちは語る。一週間前に未乾燥モミ米
はキロ1,280〜1,300ルピアだった。乾燥モミ米だとキロ1,450ルピアにな
っていた。[ 続く ]