「米作農民哀歌(3)」(2020年10月28日)

モミ米売買の場では、チャロが水田地帯を回って十分に実り切った田を見つけると、その
田のオーナーである農夫に渡りをつけて売り先を任せてもらうか、もしくは仲買人の誰に
売れと指図する。

その取引が実現したら、チャロは仲買人からクインタル(100キログラム)当たり2千
ルピアの報酬をもらえるのだ。収穫期にチャロのだれもがたいてい一日に20から30ト
ンのモミ米を斡旋しているそうだから、何日で農家の4カ月分の収入に匹敵するのだろう
か?

こつこつと土を耕し、作物を世話し、不作のリスクを背負いながら4カ月を送る農家と、
何のリスクも負わず、ただ斡旋仲介を「オレがした」と認めさせれば収穫期の数週間で高
額の収入を得るチャロの仕事と報酬を比べるなら、すさまじい構造的矛盾がそこに存在し
ていることが判るだろう。

スバン県にはチャロが150人ほどいて、かれらはきわめてアグレッシブに農夫を煽る。
実った田があれば、「すぐに取り入れを行え」「すぐにモミ米を売れ」とせっつくのであ
る。チャロには、農夫をその気にさせる話術と自分を信頼させる特技がある。あれこれと
それらしい理由をあげてせっつかれたなら、たいていの農夫はついついその言いなりにな
ってしまう。

取り入れが終わると、チャロは仲買人に連絡する。仲買人はトラックと秤、そして現金を
持ってやってくる。モミ米が計量され、トラックに積み込まれると、農夫に現金が支払わ
れる。農夫がチャロの説得に負けてモミ米を売る気になるのは、この現金払いの魅力があ
るからだ。

仲買人は仲買人で、未乾燥モミ米をできるだけ早く自分に売らせようと考えているから、
未乾燥はキロ当たり1,140ルピア、乾燥済みはキロ当たり1,300ルピアという接
近した値付けを行う。農夫が自分で乾燥させたところでたいした収入増にならないのだか
ら、自分で付加価値をつけるだけの意味がないという考えに農夫を落ち着かせる手法がそ
れだ。自宅に乾燥場を設けていない農夫にとってはなおさらのことだ。


コメ仲買人のそんなやり口は、インドネシアのモミ米や米の売買で昔から行われて来たも
のである。コメの生産流通のすべてのステップに密着して、赤の他人がシンジケートよろ
しくそこから搾り取れるだけのものを手に入れようと相互に監視と保護を与え合い、共存
共栄しようとする。わたしはそれを悪の同盟と呼んできた。

その容易に、安易に、しかもすぐに作られる悪の同盟とはたとえば、こんな事例がある。
二十年以上前に偽名の銀行口座は当たり前のように開けていたが、たいていが犯罪や違法
行為に悪用するのが目的だったために政府がその状況を粛清しようとして、銀行界にそれ
ができないよう、口座開設条件を厳しくさせた。

するとニセモノKTP作りたちが偽名口座を作りたい者たちに贋造KTPのオファーを積
極的に行い始めたのである。そのようなことがインドネシアにしかないと言う気はさらさ
らないものの、そのマッシブな動きはあたかも民族性のひとつであるかのようにわたしに
は見える。このような国民を持てば、行政者の施策遂行はそうでない国よりたいへんにな
るのも明らかではあるまいか。おまけにこの国では行政・立法・法曹者の中に悪の同盟者
たちがあげた利益の上前をはねようとする者まで混じっているのだ。国民に困難を与えて
混乱させ、そこで行われる違法行為であがった利得を横取りしようとする国政有力者はす
くなからずいる。[ 続く ]