「イギリス人ウォレス(11)」(2021年04月23日)

ウォレス一行は島の中央部にある村に行って滞在することにした。そこの住民は鳥を捕ま
えて海岸部に持って行き、バーターを行っている。また混血が進んだ海岸部よりもアル土
着民の要素をたくさん残しているにちがいあるまい。

確かに内陸部の住民は混血要素がたいへん少なかったので、間近でじっくり観察すること
ができたが、おしゃべり好きなのはまるで同じだ。朝から夜まで、休みなしに大声でしゃ
べり、叫び、笑っている。

男たちから子供までが、弓矢の名人だ。動き回るときには必ず弓矢を持っている。あらゆ
る種類の鳥を、時にはイノシシやカンガルーを射る。それらの肉を食べるので、野菜と果
実だけの食事をしているひとびとよりも身体が健康だ。あるとき、狩ったクスクスを見せ
てくれた。ウォレスが買おうとすると、ダメだと言った。かれらは肉を食いたいのだ。ウ
ォレスはその皮を買い、すぐに皮をはいで肉をかれらに渡した。


村人たちはウォレスの国の名前を知りたがった。はじめて見た白人の国の名前が言えなけ
れば、それを話題にすることさえ難しい。つまり話のタネの価値が半減してしまうのであ
る。ウォレスがEnglandと答えると、みんなその言葉を真似したが、うまく発音できない。
するとひとりの老人が、本当の名前を教えろと言い出した。「このわしの国はワヌンバイ
で、わしはオランワヌンバイ。ほら、誰にでも言えるだろう。ところがあんたの国は何だ
って? Ang-lang? Anger-lang? N-glung? そんな誰にも言えないような国があってたまる
か。あんたはわしらをからかっているのか?それとも何かわけがあって本当の名前を隠し
たいのだろう。」

ウォレスは本当だと言い張ったものの一座は信用せず、本当の名を隠したいのだというこ
とに落ち着いたようだ。更におなじみの質問が来た。「あんたはここで捕まえた鳥や虫な
どの生き物を丁寧に剥製にして箱に詰めているが、いったい何のためなのか?」

それはどこでも受ける質問であり、この村に来たときからも何人もが尋ねていた。ウォレ
スはいつものように答えた。「わたしの国に持って帰ってみんなに見せるのだ。生きてい
る時のような姿にして飾ると、みんなはこれを見るために集まって来る。」しかし同じ老
人が反論した。「あんたの国はキャリコやガラスやナイフなどのもっと素晴らしいものを
作っている。ひとが見に来るのはそういうものだ。鳥や虫を見たってしようがないではな
いか。ひとはもっと良い物を見たいのだ。そもそも、どうしてそのように厳重に箱に入れ
るのか?あんたがそれを持って海に戻ったら、箱の中のものに何が起こるのか?」

ウォレスは冗談交じりに反問した。「何が起こると思う?」
得たりとばかり、老人が答えた。「みんな生き返るのだろう。あんたたちは海の上で食べ
物に困らない。」
老人は続けて言う。「あんたが来る前、何日も雨が降り続いた。ところがあんたが来てか
ら、好天続きだ。わしにはもうよく分かっている。あんたはわしを騙すことはできない。」
ウォレスはついに魔法使いにされてしまったようだ。


ここでは毎年9〜10月が乾季のピークになる。その時期になると水が得られなくなるた
めに村人は森の中の水が残っている場所へ移動して暮らす。あるいは大きな竹筒を持って
水を汲みに何キロも通う。持ち帰った水は貴重品のように大切に扱う。

その時期には、数百もの鳥や獣が渇死することもある。水のある場所に網を張ったり、そ
こで見張っていれば、珍しい生き物が捕り放題だ。ぜひ、ここでの滞在を延ばせ、と村人
が言ってくれたのだが、ウォレスはそれに応じることができなかった。[ 続く ]