「ジャワ島の料理(58)」(2022年01月31日)

ボゴールもスンダ文化の域内であることは違いがないから食文化も似たようなものだが、
それでもボゴール特産というものはある。その筆頭がtaoge gorengだろう。taogeはtauge
あるいはtogeとも書かれて、たいていのインドネシア人はトゲと発音している。KBBI
はtaogeを標準綴り、togeをバリエーションとしており、taugeは認めていない。このタウ
ゲは豆芽の福建語読みである。豆の福建語発音はtauであるから原語での綴り方はtaugeに
なり、taugeという綴りが外国語であるためにtaoge/togeのみがインドネシア語と認めら
れたのかもしれない。

もちろんインドネシア語文の中に外国語単語をそのまま書くのは何ら禁じられた行為でな
いので、外国語である福建語の綴りをtaugeとそのまま用いても、他人からとやかく言わ
れる筋合いのものでもあるまい。

豆tauに関連する中国の食べ物は他にも豆腐tauhu(インドネシア語はtahu)や豆醤taucionn
(インドネシア語はtaoco)などが一般に知られている。


さてボゴール名物のトゲゴレンはその名前から、まず間違いなく「モヤシ炒め」を日本人
に思い出させるだろう。ところがその名称を裏切って、ボゴールやブタウィのトゲゴレン
は真実toge rebusになっている。つまり油を使わずに少量の水で「炒める」のである。

その不一致を店のおやじに苦情しても、聞く耳を持つ店主などいない。「こりゃ先祖代々、
そういう名前で作られて来たものだ。客はみんな承知の上でそれを食べに来る。知らない
のはおまえさんだけだ。」と言われて一件落着にちがいあるまい。トゲゴレンがボゴール
食の代表の地位に就いたのも、その名称のミスマッチングのゆえだという声すらあるくら
いだ。


トゲゴレンのレシピは簡便この上ない。弱火に置かれた銅鍋によく洗ったモヤシと少量の
水をいれて茹でるか、あるいは深い陶器皿で適量の水と茹でるかしたあと、水を切ってタ
フゴレン・ロントンあるいは麺と合わせた上からブンブをかける。小さいクルプッがたく
さん置かれるのが普通だ。

ブンブは豆醤・赤バワン・ククイの葉・ヤシ砂糖・トウガラシ・トマトで作る。ブタウィ
ではブンブにオンチョムを混ぜるが、ボゴールでは全くオンチョムが使われない、と20
06年のコンパス紙は書いている。更にケチャップマニスが振りかけられることもあるが、
それはお好み次第にすればよい。トゲゴレンは作られたらすぐに温かいものを食べるのが
もっともおいしい。自宅に持ち帰って冷めたものを食べると全然おいしくない食品の典型
がこれだろう。

トゲゴレンは真昼間の間食だ。トゲゴレンをおかずにして飯を食べるひとはまずいない。
道路脇でトゲゴレンを作らせ、その場ですぐに食べる。一杯食べるだけで結構お腹が膨ら
み、更に何かを食べようと言う気はほとんど起こらない。


トゲゴレン売りはボゴール市内の随所の道路脇に出現する。固定された建造物でトゲゴレ
ンの一品売りをしているところはきわめて少ない。トゲゴレン売りが最低レベルの資金で
開始できる商売であることを、それが物語っている。

2006年のコンパス紙記事によると、ジャカルタナンバーの車が土日にボゴールに遊び
にやって来ると、それらの車はボゴール市内スルヤクンチャナ通りを目指し、通り沿いに
あるパッ・チャイの店とパッ・ママッの店でトゲゴレンを賞味するのだそうだ。店と言っ
ても、上述の通りの道路脇の作り売りの場所という意味だ。

その当時でトゲゴレンは一杯が4〜6千ルピアだった。パッ・チャイが言うには、ボゴー
ルを目指す車の中から電話をかけてきて、「あと何分くらいで着くから四人前作っておい
てくれ。」と頼む人までいるそうだ。

時には、誕生日や結婚のパーティのために会場で店開きしてくれという注文も入る。そん
な場合は、最低百人前の保証と会場までの交通費負担が条件になるとパッ・チャイは語っ
ている。[ 続く ]