「ジャワ島妖怪大全(18)」(2023年06月28日)

II ムムディ
1 wetala
ウェトロは墓地に埋葬された遺体の皮膚から出る輝きに由来しており、墓地でよく見られ
ることからsetan kuburanとも呼ばれる。ウェトロはときどき墓地の一帯を徘徊して新し
い墓の遺体に入るようなことをするから、死者がよみがえったという話が人間の間で話題
になる。

この種のムムディは誰かを支配しようとする人間に利用されやすい。ウェトロシッディの
呪文で呼び出されたウェトロは、呼び出した者の命に従って指示された人間に憑りつき、
呼び出した者が望むあらゆることを憑りついた人間にさせるのである。しかし霊魂の抜け
た星気体に包まれている、善行を好む人間には通用しない。

2 cacal
チャチャルはウェトロに似ている。霊魂が天上界に向けて去ったあとに残された星気体の
死骸の影がチャチャルだ、チャチャルという言葉はアラブ語のchayalに由来している。こ
の影は呪文によって生命を吹き込まれるとよみがえるので、何らかの意図を持った人間が
善行のため、あるいは悪行のためにチャチャルを動かして何かをすることが起こりうる。
そのときチャチャルは道具として使われているだけだ。

3 preta
強欲な人間の心の影がプレタである。欲張りな性質の人間が死んで天上界に去って行くと
き、星気体の死骸に心の影が残される。それはハントゥになって欲張りな性質の人間に惹
かれて行く。悟りに導くためか?いや、その反対だ。プレタは人間の強欲さを限りなく高
めようとするのである。

4 makaryangan
生きているとき性悪な人間だった者の霊魂は、死後天上界に移ることができない。地上界
に居続けるためにハントゥになった者がマカリヤガンである。アニミズム信仰者が敵を神
秘的な方法で攻撃するときに使うのがこのハントゥだ。

このハントゥに向けて特定の呪文を唱えると、ハントゥは敵の家に石を投げたり、扉や窓
を叩いたり、家の中の物の位置を変えたり、敵にシリを噛んだあとの唾液を吹きかけたり
する。

ジャワ島では頻繁に、この種の目に見えない沈黙のパワーが復讐のために使われてきた。
それらのハントゥを操作するための呪文がwatek ajiと呼ばれており、そのパワーを自在
に操ることのできるドゥクンは世間から怖れられている。

5 rogo sukma
ロゴスッマは生前、悪行の限りを尽くして最終的に命を落とした男の霊魂に由来するハン
トゥであり、意のままに自分の姿を人間の前に現わすことができる。ハントゥとしての自
分の生命を維持するために、寝ている人間の血液とパワーを吸い取る吸血鬼がかれらだ。

かれらは死ぬ時、死後自分の身体をさまざまなものに変える呪文を唱えてその能力を得た。
かれらの中にはヴァンパイアの姿を選択した者が多い。その姿になると悪事が行いやすく
なるのだろう。

この種のバンパイアは欲望を鎮めることのできない悪人の血を渇望する。善なる生を生き
る者は周辺環境にあるさまざまな善の要素がその者を包むために、ヴァンパイアは近付く
ことさえ躊躇する。その者の血を吸おうなどとは考えもしないだろう。ジャワの古文書に
は、死後にヴァンパイアになる呪文を唱えて死んだ者の死骸は腐らないと記されている。
仮死状態になっているということのようだ。[ 続く ]