「ジャワ島妖怪大全(20)」(2023年07月03日)

このハントゥは吝嗇・邪悪・残酷・嗜虐的な性質を持ち、自分の死の原因になった行為を
憑りついた人間にさせようとする。そのため、憑りつかれた者も似たような運命をたどる
ことになる。善で潔癖な人生を送っている者は滅多に憑りつかれることがないとはいえ、
ハントゥの誘惑に負ければ悪い運命をたどるだろう。

18 urang alus
仮死状態になった善人の霊魂が体外に出たものがウランアルスだ。地上界にいるだれかを
保護したいために行われることであり、そのだれかに向かってやってくる邪悪な影響をウ
ランアルスが遮断する。保護が必要でなくなったとき、はじめてウランアルスは天上界に
向かって地上界を去る。ウランアルスは自分の姿を示現する能力を持っているので、ジャ
ワ人はこれもハントゥのひとりに区分した。

ウランアルスになるためには、生きているときにヨガの術を完璧に身に着けなければなら
ない。呼吸を止め、何も食べず、身体を動かさないで生き続ける術を行って霊魂が体外に
出られるようにする。霊魂が抜けた仮死状態の肉体は腐敗しない。普通の人間はオカルテ
ィズムを死後体験するのだが、この種のひとびとは生きているときにそれがどのようなも
のであるのかを既に知っている。

温水で身体を洗うことで仮死状態の肉体を生き返らせることができる。それがうまく行か
ないと何年も仮死状態が継続し、霊魂はその間、自分の務めを果たすのである。

19 macan gadhungan
sima gadhunganという別名を持つマチャンガドゥガンには二種類ある。
1.人間が呪文で自分をトラの姿に変えたもの
2.死に際して人間が呪文で自分の霊魂をトラの姿にし、霊魂が自らの意志で実のトラに
変化したもの

生きていたときの自分の敵を滅ぼすのがトラへの変身の目的であり、爪で引き裂いて食い
殺す方法か、そうでなければ敵を仰天させて怖がらせ、重病に陥らせる方法がその手段に
用いられる。マチャンガドゥガンは、1の場合だと一日しか続かないが、2の場合は四十
日間継続できる。このトラへの変身には特別な条件があるので、呪文を知っていても変身
できるとはかぎらない。鼻と口の間にへこみがなく、あるいは脚にかかとのない者だけが
トラに変身できるのである。

20 blawong
ブラウォンはオオカミのこと。マチャンガドゥガンがトラなら、こちらはオオカミへの変
身であり、内容はどちらもよく似ている。トラになって敵を倒すか、それともオオカミに
なってそうするかという、本人が執る姿の違いがあるだけのようだ。

21 tiang malih rupo
manglihとも呼ばれるティアンマリルポは別の姿に変身する者を意味している。かれらは
呪文を唱えてワニや毒蛇のような、人間を食い殺したり毒で殺したりする動物に変身する。
そのために昔のジャワ人はトラ・ワニ・オオカミ・蛇などを見つけたら、すぐに殺すよう
にしてきた。

普通の人間を害する動物に変身する者はdukun, urang teluh, nelohと呼ばれるひとびと
だ。この術の短所は、変身しているときに傷を負うと変身を終えて人間の姿に戻ったとき
身体の同じ場所に傷が残ること、そしてもしも変身中に死んだら変身が解けて元の人間の
姿に戻ってしまう点にある。[ 続く ]