「ジャワ島妖怪大全(21)」(2023年07月04日)

22 prapti
生きている人間のハントゥがプラプティである。呪文を唱えて身体が透明人間になり、霊
魂はその身体から離れて別の場所で別の肉体を持つ。しかし時には、自分の身体が透明人
間にならず、魂が抜けただけの仮死状態の身体になってしまうことも起こる。霊魂が戻る
まで、その仮死状態の身体に手を触れてはいけない。ちょっとでも触ると身体は本当に死
んでしまい、霊魂の戻る場が失われてしまう。

23 shaiya
シャイヤは人間の祈りや善の想念が自然界の霊魂の皮や影と交わってはじめて形成される
ものであり、人間の目に見えない。シャイヤは人間に悪い考えを起こさせるネガティブな
影響からその者を保護し、善人であることを維持させようとする望ましい星気体である。

24 bhut
シャイヤと反対の、悪の想念が呪いや罵りを引き起こし、それが自然界の霊魂の皮や影と
交わってできた、目に見えない邪悪なハントゥがブッだ。ブッは人間全般を敵視する。

悪行の源泉になる悪意を人間に持たせるのがブッの望みであり、本人の性質がそれほど悪
人でなくとも、ブッの影響を受けて悪事に走る人間の数は少なくない。悪事を犯した者が
あとで自分の行為を振り返り、どうしてあんなひどいことを自分はしたのだろうかと反省
するようなことは日常茶飯事で起こっている。

それは言い換えると、人間は容易に悪に影響されて悪事を行う傾向が強く、反対に人間に
とって善は悪ほど強いものでなく、また魅力的でもないということを意味しているように
思われる。

以上がおおよそのジャワ島妖怪名簿になるだろう。しかしそれらの名前と特徴をすべて克
明に記憶したからといって、ジャワ島で妖怪に出会ったときにその妖怪がこの名簿のどれ
に該当するのかを言い当てるのはたいへん難しいように私には思われる。しょせんはハン
トゥの一語ですべてを代表させなければならないのかもしれない。いや、現実にはグンド
ゥルウォ、ウェウェ、クンティルアナッ、スンデルボロン、ブトイジョ、トゥユル、バナ
スワティ、その他大勢のハントゥという区分を用いている人々もたくさんいるにはいるの
だが。


ご多聞にもれず、インドネシアでもホラー映画が好まれている。インドネシア大学フラン
ス文学女性教官はインドネシアのホラー映画に関する博士論文を書いた。それによれば、
80年代のホラー映画は二・ロロ・キドゥルや二・ブロロンなどの神秘的力を持つ女性あ
るいはクンティルアナッのような女の幽霊を主人公に取り上げるのが常だったとかの女は
語る。クンティルアナッは存命中男に虐げられた女が幽霊となってその復讐を男に向ける
話なのだが、なんと悲しむべきことに、幽霊になってすら男のドゥクンや宗教者に倒され
てしまうのである。女の不幸に向けられる関心が高かった時代の意識がそのような現象を
招いたのだろうか?

もっと後の時代になって、ホラー映画の主人公にポチョンが仲間入りした。昔は、性別の
まるで判然としないポチョンがホラーの主役の座に着くようなことは起こらなかった。イ
ンドネシア人にとってポチョンは恐怖をもたらすものだが、異文化人の目にそれは滑稽な
ものに映っている。身体をぐるぐる巻きにされてひもで縛られ、ただぴょんぴょん飛び跳
ねているだけの存在のどこが怖ろしいのか、というのが異文化人の感覚だそうだ。[ 続く ]