「暴力主義の国(前)」(2023年07月06日)

ライター: 社会学者・文学者、アリエル・ヘルヤント
ソース: 2003年3月30日付けコンパス紙 "Jin, Jender, Jenderal" 

ジン、ジェンダー、ジェネラルの違いは何か?通常、インドネシア映画でジンは女性だ。
インドネシアの政治軍事史において、将軍は全員が男性だ。ジェンダーとは、そのような
性別に従ってジンとジェネラルの差異を生み出した歴史の災厄を指している。

インドネシアのホラー映画やシネトロンが高い人気を博しているのはだれもが理解してい
る。だが、ジェンダー問題は?

インドネシア映画を研究している米国人学生が尋ねた。「インドネシア映画の中で、なぜ
ジンやその種のものはいつも性別が女性になっているのですか?」インドネシアの中でそ
んな質問は出て来ない。多分ジェンダーイデオロギーが強固なためだろう、その重要な問
題は大衆の批判精神から抜け落ちている。


去る2月にアグネス・スプラプティニンシが西ジャワ州スバンで初の県警長官に任命され
た。スバンどころか、それはこの国で初めての女性県警長官就任だったのだ。国会で男性
が人数的にあまりにも優勢であることを批判するフェミニストは多い。ところがこの暴力
主義社会の国で女性の暴力主義者は見当たらない。反対に、インドネシアホラー映画で女
性でないジンが出て来るものなどまったく見当たらない。

1974年の映画スンダルボロンやクンティルアナッが銀幕に映し出したのは明らかに女
性という生き物だった。2001年の映画ジェランクンでインドネシアの若者たちを一番
怖がらせたと見られているのは、そこに姿を見せた男児の幽霊でなくて這う看護婦だった。
ホラーの根源が女性であるという伝統は2003年のディマス・ジャヤディニンラ監督作
品ジェランクン刺突やその前の2002年の黒点などに一貫している。

インドネシアでミリタリズムが興隆した時代に「墓穴の出産」という映画が1971年に
作られた。オルバレジームが破産してミリタリズムが四分五裂したあと、どうなっただろ
うか?「墓穴の二重機能」などという映画が作られるとは思えない。

女優のスサンナはホラー映画での演技で人気を集めた。男優に同じことが起こるとは考え
られない。上にタイトル名を挙げた作品以外にも、1982年のネネグロンドン、二ブロ
ロン、金曜クリウォンの夜などのホラー映画でかの女はスターになっている。


これは多分、インドネシアだけの現象ではないように思われる。近年人気の高いアジアの
さまざまなホラー映画に登場する妖怪幽霊は女性が優勢だそうだ。男性の方が優勢な西洋
映画と比べてみるがいい。西洋映画の大半が妖怪幽霊に男性を登場させているではないか。
ドラキュラ、バンパイア、ゾンビ、フランケンシュタイン。そのような者たちに対応する
インドネシア版が見られないのはどうしたことだろう?その理由も、どうもはっきりとつ
かめない。

わたしはこの分野でインドネシア映画がハリウッド映画のようになるべきだとか、ハリウ
ッドがもっと女性をホラーの源泉に使うようにしろと言っているのでは決してないのだ。
両方が同等の奇妙さを持っている。両方が問題含みのジェンダー理解を示しているように
見えるのである。[ 続く ]