「海を忘れた海洋民族(8)」(2024年02月22日) kapal 海や川などで人間や荷物を運ぶ乗り物というのがKBBIの定義だ。どうやらこの言葉が イ_ア語で船を包括的に表す一般名詞になっているように思われる。 これはタミル語kappalをムラユ人が摂りこんだものだそうで、17世紀以前のヌサンタラ で書かれた古文書にはインドからの船を指す言葉として使われていた。大型船を指して使 われるケースが多いように感じられるものの、KBBIはそのような規模感をこの言葉に 持たせていないと思われる。 perahu KBBIは「両端が尖っていて中央が幅広い、甲板を持たない水上の乗り物」という定義 を与えて、船体構造を語彙の基本観念に使った。 ムラユ語源のプラフは慣用的にkapal laut(渡洋船)より小さい船を指している。プラフ は渡洋船に引かれて運搬されることがある。ところが17世紀までプラフは大型船を指す 言葉であり、西洋のガレオン船がプラフと呼ばれていた事実があるのだ。しかし現代語で はプラフがカパルに置き換えられて使われており、そこからカパルが持つ規模感の暗意が 湧き上がって来る。 プラフの語が持つ規模感はどんどん小さくなり、昔sampanと呼ばれていた船種が今ではプ ラフと呼ばれるようになっている。 sampan 小型プラフというのがこの語の定義だ。語源は中国語の[舟山]+[舟反]あるいは三+[舟反] であり、中国南方によく見られる、むしろの帆と風覆いが設けられた平底木造船で、艫の 櫂で漕ぐ。現代インドネシアではこれがプラフと呼ばれることが多い。 lancang ムラユ語の「速い」を意味するランチャンがそのまま船種の名称になったもの。KBBI には、昔の海戦などに使われた高速のperahu layar(帆船)と説明されている。スマトラ 島東岸やカリマンタン西部地方のムラユ王国で、戦争や物資輸送、あるいは王宮の諸用途 などに使われた。 pencalang 通商物品を運ぶ大型のプラフというのがKBBIの定義だ。ムラユ語プンチャランは「観 察する」「偵察する」を意味するcalang/mencalangの派生形であり、元来は偵察船として 使われていたと考えられる。 pinisi 「スラウェシ島南部のボネやブトンの伝統的プラフラヤル(帆船)。メインマストを2本、 帆を舳先に3、前マストと後ろマスト各2の合計7枚持ち、島嶼間海運輸送に使われてい る」といういささか長い定義をKBBIは書いている。 別名phinisiなどと呼ばれているこの言葉は帆の張り方のスタイルを指す言葉であり、特 定の船型を指しているのではないそうだ。語源は地元の言葉から来たもの、西洋語から摂 られたものなどいくつかの説がある。 この型の船はスラウェシ島南部のブルクンバで19世紀から作られるようになったと見ら れている。たいていブギス=マカッサル人が操っているこの船はヌサンタラの海洋文化を 象徴するものとしてよく紹介されている。 jung 中国製の渡海用大型プラフというのがKBBIの定義だ。これはjongやjunkとも呼ばれ、 中国からアフリカ東岸部一帯にかけての渡洋に使われた大型帆船であり、アウトリガーは 使わない。中国のジュンとジャワのジュンが双璧とされていて、構造と形態はそれぞれ異 なっている。現代英語にはjunkが船種名として摂りこまれ、中国ジュンを指して使われて いるので、KBBIの語義はそれに影響されたように見える。 [ 続く ]