「マカサルの洋学者(終)」(2025年06月19日)

パッティ~ガロアンもへヴェリウスと同じことを考えたかもしれない。月を眺め終えて満
足したかれは、続いてその周囲にある光点に焦点を合わせた。夜の天というものは輝く光
に彩られた単なる巨大な暗黒なのでなく、変化と秩序によって組み立てられたひとつの生
であるということをレンズがかれに気付かせた。

天にあって、マカサルのフィニシ船が何世紀にもわたって航海の友にしてきたすべての物
体は動いており、位置と配置を変え、星座は移動するにもかかわらず、それらのすべては
厳格な秩序の中で起こっている。

望遠鏡がとらえた光は、これまで裸眼にはっきり映じていなかった新しい友の存在をかれ
に教えた。その当時、天にある物体のほとんどが、今のように名前を付けられていなかっ
た。新たに見つけた物体に名前を付けようか?そうすれば、天上の物体と遭遇したことで
生まれたかれの知的センセーションを広く世の中に示すことができる。首相になる前に軍
事知識を広める努力を行い、高価な学術ツールを購入するようスルタンを説得したかれの
情熱に着目するなら、かれはそう考えたはずだと推察できる。

そのために学術機関を設け、マッチニソンバラの塔を公開天文台にしたかもしれない。そ
こからロンドンのロイヤルソサエティやパリの科学アカデミーへの道はあと数歩の道のり
だ。ヨーロッパの優越性に裏付けを添えたそのふたつの学術組織はチャールズ2世とルイ
14世が、パッティ~ガロアンが天体望遠鏡を持ってマッチニソンバラの塔に登り、そこ
で夜を明かした日から十数年後に設立を宣した。


自分が没してから十数年後にマッチニソンバラとソンバオプ王宮の建物群が戦火に見舞わ
れ、オランダ・ボネ・ブトン・テルナーテの連合軍の手に落ちる未来をパッティ~ガロア
ンは予想しただろうか?ヌサンタラに作られた王宮の中で最も強力なソンバオプの要害は
オランダ人上級軍人たちにとってたいへん苦しい戦いの末にやっと手にすることのできた
戦利品だった。かれらの間にはヨーロッパで80年戦争を経験した軍兵も含まれていた。
かれらはソンバオプの戦いを、ヨーロッパの歴史の中でも起こったことのないほど激しい
戦争だったと形容した。

ヌサンタラで製造された大砲の中で最大のものと謳われたアナッマカサルという名の巨砲
を含む百門を超える大砲群は、何度も連合軍を粉砕する勢いを示した。しかし内部から出
現した裏切者たちの暗躍が繰り返された結果、マカサルはついに最大級の凶暴で激しい戦
争の機会をオランダに提供しただけで、それが営んできたひとつの時代を閉じることにな
った。VOCが世界中で行った戦争でこれほど過酷なものはなかったと語るオランダ人の
賛辞を残して。


パッティ~ガロアンが没してから8年後にヨアン・ブラウが6百枚の地図と3千ページの
著述から成るAtlas Maiorを世に送った。この書は今日にいたるまで、カルトグラフィア
ートの世界で並ぶ者のない大作と言われている。

その書の世界地図のページに、ふたりの偉大なる人物の姿が描かれている。左側の半球の
左上に描かれている人物はモダンカルトグラフィ界初期の大御所メルカトルだ。そして右
側の半球の右上に描かれている人物こそ、カラエン パッティ~ガロアンその人なのである。
そこにいるパッティ~ガロアンはデバイダーを手にしてセレベスと北極の距離を測定して
いる。

ふたりの偉大なる思索家は自分のやり方で世界を構築した。いま、そのふたりは古代ギリ
シャ神話の神々に混じって天上界におり、太陽系惑星組織を相手にして仕事を続けている
ことだろう。[ 完 ]