「デリのニャイ(22)」(2025年07月12日)

監督人頭は家にやってきたカスミンを待ちかねていたように手を取って応接の間に入れ、
アヘンをご馳走する。そして憂鬱な顔でカスミンに訴えた。
「友よ、この胸の内をあんたが聞いたら、きっとかわいそうと思うだろう。」
「頭家のような大金持ちが悩むなんて、そりゃ変だ。金の力でできないことはない。」
「これは金の話じゃないんだ。あんたがこの農園に来て以来、わたしの心はあんたの姪の
ことを思って夜も眠れない。どれほどあの娘に思い焦がれているか、この胸を割ってあん
たに見せてあげたいくらいだ。」
「そりゃ残念だ。あの娘はもうトアンのニャイになってしまった。もし先に頭家と友達に
なっていたら、頭家に差し上げたのに。」
「ああ、それがわたしの運命だったんだ。わたしの人生はあの娘とすれ違うだけ。それで
も、一度でいいからあの娘とふたりだけで話をしたい。わたしのこの恋心をあの娘に示し
たい。だからわたしはそれをあんたにお願いしたいんだ。一二回、あの娘と会うだけなら
トアンにわかるはずがない。」
「そういうことなら、まず本人の意向を尋ねなきゃならない。」
「友よ、あんたが骨を折ってくれたら、わたしはお礼に百ルピアを差し上げる。」
カスミンはほくそ笑んだ。百フローリンというのはジゴロにとって並みの相場ではない。

カスミンはすぐに管理人助手の家に戻ってロスミナに成り行きを話し、この客は醜男だが
大金を持っているとロスミナをたきつけた。同時にトアンがいないこともしっかり確認し
ている。ロスミナが拒否するはずがなかった。

手筈を整えるとカスミンは監督人頭の家に取って返し、すべてオッケーだと知らせた。監
督人頭は金をかき集めるとすぐに管理人助手の家に向かおうとしたから、カスミンは約束
の百フローリンを先に払わせた。


ふたりが管理人助手の家に入ると、ロスミナが中央の広間に座って待っていた。
「これがおまえに会いたがっている頭家だ。」
と紹介する。
「ごきげんよう、頭家。」
とロスミナがえも言われないような愛くるしい笑顔で挨拶した。カスミンはそのまま自分
の部屋に向かって姿を消した。

「アイ、ニャイ。わたしはデリ中の女を見てきたが、あんたほどに美しい女を見たことが
ない。」
「あら、たいそうなことを。頭家はあたしよりきれいな人を見る機会がなかっただけでし
ょう。」
「ニャイ、わたしがあんたをどんなに恋しく思っているか、あんたはそれをまだ知らない。」
「ははは。頭家はこんなにお金持ちなのに、女がまだ足りないとおっしゃってる。」
「金は確かにある。しかしわたしの心はあんたただ一人だけを望んでいる。」
「頭家のおっしゃる愛だ恋だは口先だけじゃありませんの?」
「口先だけなら、こんなにあんたに恋心を燃やすはずがない。」
「あたしを本当に愛してるなら、その印をください。」
「ニャイは何が欲しいのかね?わたしは何も品物を持ってこなかった。明日、ニャイのた
めにさまざまな宝飾品を買ってこよう。明日でいいかね?」
「あたしへの愛の印であるのなら、品物でなきゃお金でもいいわよ。」
「わたしが愛の印をあげたら、ニャイはわたしにお返しをくれるのかな?」
「ウビ(芋)があればタラス(タロイモ)がある。ブディ(恩徳)があればバラス(お返
し)がある。ってことわざにもあるわ。」
監督人頭はロスミナを抱いて頬に口づけした。ロスミナが言うべきことを言った。
「あら、あたしへのお金は?」

監督人頭はニャイの手を引いてロスミナの部屋に入りながら、百フローリン紙幣をロスミ
ナの手に握らせた。[ 続く ]