「デリのニャイ(21)」(2025年07月11日)

チューケンはクウィホアをあしらうと、成果を報告しにカスミンの部屋に行った。だれに
も見られないようにして管理人助手の家に入り、これで15日にシアンタルへドゥクンを
探しに行けるという話をカスミンとしていると、ロスミナがやってきて監督人頭の使いが
言伝をカスミンに届けに来たと言う。

カスミンが表に行ったので、部屋の中はチューケンとロスミナのふたりだけになった。チ
ューケンはロスミナを膝に抱いて頬に口づけする。この若者が大金持ちの息子であると考
えたロスミナは少しも取り乱さず、言うべきことを言う。

「あっ、慌てないで。あたしにくれるお金は?」
懐から10フローリン紙幣を一枚出してロスミナに渡すと、ロスミナを抱えてベッドに上
ろうとしたから、ロスミナはまた言うべきことを言った。

「あれあれ、ちょっと待って、ババ。あたしのあにさんが戻ってきたら大騒ぎになるわよ。」
ババというのは華人男性への尊称であり、ヨーロッパ人をトアンと呼ぶのと同じようなも
のだ。

10フローリンのおかげでロスミナが怒った様子を見せないので、チューケンはロスミナ
をかき口説く。
「アイアイ、ノナマニス。きれいなあんたに恋焦がれて俺は昼も夜も眠れない。あんたに
憧れるこの思いをどうか遂げさせておくれ。」
「ほらほら、あにさんがこっちに向かってる。こんなところを見られたら、怒るにきまっ
てるわよ。」
ロスミナがチューケンの手を振りほどく。カスミンの足音が近づいてきているのを知って
チューケンも力を緩めた。ドアを開いたカスミンがロスミナに言う。
「いつまでもここにいて何をしてるんだ?トアンに知られたらとんでもないことになるぞ。」
ロスミナはそそくさと出て行った。

カスミンがチューケンに言う。
「老頭家が家に来てくれと言っている。」
「へえ、親父がもう家に帰ったんだ。親父があんたに何の用事があるのかな?」
「老頭家はアヘンをいっしょに?みながらわしといろんな話をするのが好きなんだ。よも
やま話をね。」

カスミンはチューケンを残して、ひとりで出て行った。チューケンは喜んだ。これは絶好
のチャンスだ。美しいロスミナの身体が俺を待っている。チューケンがカスミンの部屋を
出ようとしたとき家の中で男の足音がし、ロスミナの声が聞こえた。
「おかえりなさい、トアン。」

チューケンの顔が蒼白になる。この家に無断で入っている俺を管理人助手が見つけたら、
この農園での俺の暮らしは破滅する。チューケンはドアにカギを下ろして室内で息をひそ
め、音もたてずにじっとしていた。

食事をする音が家の中で聞こえ、そして管理人助手がまた見回りに出て行ったような気配
が感じられたが、チューケンはもうロスミナを追いかけるのを諦めて、この家からひそか
に姿を消す方法を考えていた。[ 続く ]