「スンピッ(2)」(2026年01月22日) 吹き筒そのもの、あるいは吹き矢を行うことを中部カリマンタンや東南スラウェシでは sipetと呼んでいる。中部スラウェシのカイリ族の言葉ではsopu、パプアではambaiという 名称だそうだ。東南アジアで吹き矢は元々、フィリピン〜ボルネオ〜セレベス一帯で使わ れていた土着の武器と解説されているとはいえ、パプア人も昔から吹き矢を使っていたと 報告されているので、そこにパプアを含めて良いかもしれない。 吹き矢について今さら解説する必要もないだろうが、それらの各地で吹き矢は狩猟や戦争 のための飛び道具として使われてきた。この飛び道具は弓矢よりも小型であるために飛距 離や殺傷力は劣るが、毒を塗ってその弱点を補うことができ、また矢音のように大きい飛 来音がしないというメリットもあって、適材適所で使われる戦術バリエーションの妙味を もたらしていた。 達人は2百メートル先の標的を射抜くとインドネシアで言われている。フィリピン在住の 米国人が1912年に書いた報告によれば、吹き矢の最大飛距離は46〜55メートルと なっていた。現代のインドネシアでは狩猟のため、あるいは伝統儀式の中で、更には玩具 やスポーツとしても依然として使われている。 長さが1〜3メートルに及ぶ伝統的なスンピッ(吹き筒)は竹もしくは硬い木が使われる。 長いものは二分割や三分割構造をしていて、持ち運びの便が考慮されている。ダヤッ族が 作る木製のものにはブリアンやウリンのような硬い木が使われる。パプアのアンバイも堅 い木が使われ、長さも長い。吹き筒の長さと使用者の身長は相関関係を持っているという 説があり、パプア人のあの体格であれば吹き筒が長くなる傾向を帯びるのも当然の帰結だ ろうという納得をわれわれにもたらしてくれる。吹き筒の口を付ける部分は少し広くなっ ていて、そこに矢を装填する。 アンバイにはたいてい骨や石を尖らせたものが吹き筒の先に取り付けられていて、銃剣み たいに槍や薙刀としての使い方もできるようになっている。どの地方によらず戦争用の吹 き筒はたいていそういう作り方になっているそうだ。パプア社会が比較的近年まで戦争の 色に覆われていたことをそれが示しているように感じられる。 パプア社会の戦争とはたいていが異種族間で行われる集団喧嘩(タウラン)であり、わた しはそれを村戦争と呼んでいる。村戦争でも弓矢刀剣が使われて血の雨が降るのである。 最近あまり全国ニュースで流されることがなくなったので文明化してきたとわたしは思っ ていたのだが、イ_ア語AIはパプアの異種族間タウランについて、いまだ止むことなく続 いていると物語っている。 スンピッに装填して発射する矢はインドネシア語でanak sumpitと呼ばれる。インドネシ ア語で弓をpanah、矢をanak panahと呼ぶのと同じ語法だ。ダヤッ語でそれはdamekと呼ば れており、普通は竹や質量の軽いパラウィの木などを直径1センチ未満の円錐形に削って 作る。ダメッの尖った方の先端にはたいていジャングルの中に生えているupas,apo,ipoh などという名の植物から得られる毒が塗られる。毒蛇の毒が使われることもあるらしい。 それらの多くは中和剤がまだ発見されていないそうだ。 今では空気力学の知識が普及してきたので、ダメッの先端は尖らせてあるものの後端には 飛行を安定させるためにコルクのような柔らかい木を円錐状にしたものが取り付けられて いる。筒内での気密性を高めるためコルクの表面を羽や植物繊維で覆い、樹脂で固めて吹 き筒内で発生した動力を最大限に矢の推進力に転換させるための応用技術が吹き矢の性能 を発展させているそうだ。鳥を狩るときは粘土の弾丸を使うこともある。[ 続く ]