「ヌサンタラの紙(3)」(2024年04月03日)

希望するサイズが得られたら、次はそれを折ってバナナの葉でくるみ、5〜8日間放置し
て粘液を排出させる。粘液が滲み出たあとのシートはバナナの木の幹に貼り付けて乾燥さ
せる。シートが乾燥すると自然に幹からはずれるから、それが乾燥具合の目途になる。バ
ナナの幹を使うのは、シートのテクスチャーを滑らかにするためだ。

最後に行われるのは貝の殻で表面をこする作業。これを手抜きするとシートの表面に粗さ
が残るから、緻密でスムースな表面にするためにせっせとこすらなければならない。こう
して何百年も昔から作られてきたヌサンタラの伝統的な紙が完成するのである。


経年変化に対するダルアン紙の耐久性がきわめて高いのは、シートに含まれている残存化
学成分が徐々に化学反応を進行させて、長期にわたって原形を保つからだと説明されてい
る。製紙工場で作られた、パルピングやシートフォーミングなどのプロセスを経る紙は製
造工程内で化学合成反応が再三用いられ、本体に残った残留化学成分が反応を継続させる
ために本体が冒されて行く。まるで正反対の現象が起こるという解説がインターネット内
に見られた。

そんな伝統的な製法を使って現代でもダルアン紙をたくさん作り出すことができる。カリ
グラフィを書いて飾ったり、絵画のキャンバスの代わりに使ったり、賞状や写真をプリン
トしたりとアート用紙としての使い道はたくさんあり、それなりの需要があるらしく、今
でもダルアン紙は専門店で販売されている。


スンダ地方にはダルアン紙に書かれた古文書がたくさん残されている。ダルアン紙製造の
伝統を受け継いだ職人がガルッ県チヌヌッ村トゥンギリス部落にふたりいて、1997年
まで注文を受けて生産していた。そのふたりは兄弟で、ダルアン紙の作り売りだけでは食
べていけないためにダルアン紙の生産が副業になっていたようだ。

スンダ地方でダルアン別名サエの木はありふれたものでなくなったように思われているが、
ガルッ県チヌヌッ村の周辺一帯を調査したところ、710本の木や芽が数えられた。その
芽を採って別の地方に植えれば、根付く限りダルアンの木の数はどんどん増加する。


東ジャワ州ポノロゴ県ジェティス郡トゥガルサリ村にもダルアン紙を作る職人がいる。と
言っても、この村でダルアン紙を作っているのは74歳のご婦人だ。これは2013年の
コンパス紙記事からの情報だ。

夫のマルスディさんに先立たれたスパルティさんはダルアン紙作りを日課にしている。さ
すがにそのお宅の敷地にはダルアンの木がたくさん生えているのだ。「何も世話しないで
放っておくんですが、いくつもいくつも生えて来るんですよ。」とかの女は語る。

何本も切り倒して経済性のある別の木を植えているそうだ。木が必要になるとまず大きく
なったダルアン木を伐っている。たしかにダルアンの木自体はまったく二束三文にもなら
ない。ただ薪になるだけなのだから。1950年ごろは今とまるで違っていた。そのころ
ダルアン木は金になる木であり、ひとびとは目の色を変えてダルアン木を探した。樹齢6
ヵ月程度になれば、「その木を売らないか?」と通りすがりの見知らぬひとが声をかけて
きた。[ 続く ]