「星空のインドネシア(5)」(2024年05月28日) 星座は時間と共に、また季節に応じて位置を変え、姿勢も変える。つまり直立していた形 がいつの間にかちょっと離れた位置で寝そべり、また別の季節には逆立ちしたりするので ある。そして面白いことに、そうやって違う格好に見える同一の星座に異なる名前が与え られることがジャワで起こった。 南十字星を腹の下に置いたケンタウルスの頭が睨んでいるさそり座がそれだ。ジャワ人に よれば、かれらは同一の物にさまざまな名前を付けたがる人種なのだそうで、さそり座に 起こったその現象は取り立てて珍しいものでもない、という話だ。 現代星座表のさそり座とまったく同じ形でジャワ人もそれをひとつの星座と見なした。し かし直立姿勢からちょっと傾いたものはヤシの木に例えられてKlapa Doyongという星座名 になった。ジャワ語のdoyongはイ_ア語のcondongだ。それが回転して横倒しになるとガ チョウにされてBanyak Angremという名前に変化する。ジャワ語banyakはイ_ア語のangsa であり、angremは卵を抱いて座っている姿。 ところが専門家の中に、バニャアンラムは元々さそり座を指していたのではないと語る声 もある。バニャアンラムという言葉がグブップンチャンの左下にある暗黒星雲コールサッ クを指して使われていたと思われる例がさまざまな文献の中に見つかっているので、バニ ャアンラムはさそり座のことという確定を行なうのは難しいそうだ。コールサックの形も 卵を抱いている鳥の姿を連想させ得るものと思われる。 もっと回転してさそりの爪が下を向くと刀身部がちょん切れたパラン(刀剣の一種)の柄 を意味するSangkal Putungとまた名を変える。サンカルプトゥンの別名として、頭が下で 尻尾が上のサソリを意味するKala Sungsangというものもある。インドネシアでは逆子の ことをbayi sungsangと呼んでいるから、スンサンの意味は明らかだろう。その星座を西 洋人がさそりに見立てていることを知ったジャワ人がこの別名を作ったのかもしれない。 ジャワ人は天空のあの巨大な星座を最初からさそりにはなぞらえていなかったようにわた しには思われるのである。 インドネシア語でさそりのことをkalajengkingと言う。ジェンキンという言葉は頭を下げ て尻を持ち上げる動作や姿勢を意味していて、さそりが敵を尾で刺すときにそんな姿勢を 執るために付けられた名前のようだ。kalaは敵を刺すクモやさそりを意味しているから、 尻を高く上げて敵を刺すカラという意味になるのだろう。ジャワ語でもその意味はまった く同じだ。 インドネシア原生のさそりは南スラウェシに産する世界でもっとも小さい種類のものであ り、刺されても毒性が弱いのであまり危険でないそうだ。今では国内のあちこちにいるよ うで、バリ島にもいる。わたしがバリ島に住み始めたころ、ガレージで小さいさそりを見 つけて驚くことが何度か起こった。ガレージに置いてある何かを持ち上げると、その陰に さそりがいたのである。さそりも驚いて逃げた。わたしの想像以上に逃げ足が速かったこ とが印象に残っている。 そのころこの村は空き地と空き家がたくさんあり、自然がいっぱい残っていたからさそり もたくさんいたのではないだろうか。今はもうさそりを見ることもなく、建て込んでひと をうんざりさせる状態になりつつある。 農業社会のジャワ島にはジャワの暦がある。ジャワ人は1年を12のmangsaに分けた。た だしこのマンサはそれぞれ日数が違っており、月の運行によるほぼ30日間という期間と はまるで異なっているから、マンサをひと月と見なすとミスリーディングになるだろう。 ジャワ語のマンサは時期や期間といった意味を示す言葉だ。 ジャワの暦についての詳細は↓↓↓がご参照いただけます。 https://indojoho.ciao.jp/koreg/kalenda.html [ 続く ]