「世界を揺さぶったスパイス(25)」(2024年05月28日)

トゥラカン郡ウォノシディ村は標高1千メートルを超える山中にある。村の周辺の山稜は
松の木とヤシの木とそしてクローブの木が入り混じって密林を形成している。地元農民の
多くはクローブ栽培を生計の中心に位置付けており、クローブの木を世話し、花の蕾を収
穫する。

収穫期に入っている一軒の家で、深夜まで30人くらいのひとがクローブの山を前にして
働いている。茎から花蕾をはずす作業をしているのだ。郡内でも貧困村に位置付けられて
いるこの村に年に一度訪れるか訪れないかというクローブ収穫の真っただ中にかれらはい
るのである。そんな徹夜の作業に立ち向かうかれらの顔は自然とほころびに彩られる。

働いている30人はたまたまみんな村の地元民だが、トレンガレッやポノロゴから働きに
来る人が混じるほうが普通だ、とその家の主人は説明した。


東ジャワでは1950年代にトレンガレッでクローブの栽培が始められた。1970年代
になってトレンガレッからクローブの苗木がパチタンに移植され、パチタンでの生産が活
発化するようになる。中でもパチタン県トゥラカン郡の地勢と気候がクローブの生育に最
適だったようで、高品質のクローブを求める消費者はトゥラカン産を尋ねるようになり、
老舗のトレンガレッはパチタンと追いつ追われつの生産競争を繰り広げるようになった。

東ジャワ州のクローブ生産センターはパチタン県を筆頭に、トレンガレッ、マラン、バニ
ュワギなどの諸県がそのあとを追っている。クローブ農民がクローブに頼って生計を立て
ているケースも少なくない。

州内で生産されるクローブの98%がクレテッタバコに使われる。クレテッタバコ製造工
場はスラバヤ・クディリ・マラン・トゥルンガグンなどに散在し、また中部ジャワのクド
ゥスにも生産者が集まっている。

東ジャワのクローブ生産はクレテッタバコ産業と持ちつ持たれつの関係にある。それは地
元産であるために輸送費が小さくて済むこと、またクローブ国内総生産量の8割を消費す
ると言われているクレテッタバコ製造業界の膨大な需要が国内総生産量の1割程度しかな
い地元からの供給を全量受け入れても何の問題も起こらないというメリットに負っている
からだ。

紙巻クレテッタバコは一本の重さが2グラムで、混入される粉末クローブは標準0.23
グラムとされている。ところが総コストの半分をクローブが占めているのである。だから
農民にとってのボナンザはタバコ生産者にとっての頭痛のタネになる。タバコ製造業界も
クローブ商業統制の被害を受けたそうだ。昔はクローブの最大消費者としてクローブ生産
者価格に対する影響力を振るっていたものが、商業統制によって生産者との関係を断ち切
られ、市場価格に対する影響力が失われてしまったとかれらは語っている。2000年の
ボナンザはクローブ在庫の品薄がもたらしたものであり、それが繰り返されることはない
だろうというのがタバコ業界者の見解だ。

クレテッタバコ業界は年産22億本の紙巻クレテッを生産しており、そのためのクローブ
需要は年間8〜10万トンとなっている。これは2000年ごろの話だ。[ 続く ]