「星空のインドネシア(7)」(2024年05月30日)

南スラウェシ州ブルクンバ県ビラ地方の住民も人種的にはブギス人であり、ブギス文化の
流れを汲んでいる。しかしかれらの話すコンジョ語は言語学的に言えばマカッサル語のほ
うに近いものだ。

ビラの船乗りたちはまだコンパスを知らない時代、大洋を航海するために星のコンパスを
作った。作ったとは言っても紙に書いてみんなに配ったのでなく、口伝で与えられる情報
を覚え込んで次の世代に伝えてきたのだ。かれらは隣のアラ村で建造されたピニシ船に乗
って大海を巡った。風・海流・波・星と太陽の動きを知り尽くしたかれらはヌサンタラで
一二を競う船乗りになった。

ビラ地方には大洋を乗り切る経験を若いころから積みあげた船乗りがたくさん残っている
ため、ビラ人の航海技術の秘伝を文書化する試みは順調に進展している。ただ、かれらが
物語る秘伝の中で星に関する話のウエイトはそれほど大きくない。ブルクンバ県ボントバ
ハリ郡ダルビア村住民のマスルディンさんが言うように、航法の目安にする星に逐一名前
を付けて教えるような指導法が執られなかったようだ。「1961年からわたしは船に乗
り組むようになりましたが、わたしらはたいてい星の名前を知らないのです。」


ビラの船乗りたちが方位の指標にしている星が6つあるとヌサンタラの海洋世界を解説し
た書物は述べている。それらの星にはもちろん名前がある。西の方位を教えてくれるbahi
星、東を示すlohe星、南の指標balu星、西〜北西はtallu星、北東にあるsapo sala星、東
〜南東に位置するpurung-purung星がそれだ。

一方、ブギス人の航海方法について調査した論説にはもっとたくさんの星が方位指標とし
て使われていることが述べられている。それらをひとまとめにすると、次のようなリスト
ができあがった。( )内は対応するインドネシア語。
bintoeng balu mandara (janda Mandar) 北の指標
bintoeng sapo sala (rumah salah) 北東の指標
bintoeng pitu (tujuh) 東の指標 
bintoeng lohe (besar) 東の指標
bintoeng timoro (timur) 東の指標
bintoeng tanra tellu'e (lambang tiga) 東の指標
bintoeng purung-purung (berkerumun) 東〜南東の指標
bintoeng balu (janda) 南の指標
bintoeng lambarue (pari) 南の指標
bintoeng bale mangngiweng (hiu) 南の指標
bintoeng sallatang (selatan) 南の指標
bintoeng bola keppang (rumah belum jadi) 南の指標
bintoeng tanra bajoe (lambang/suar Bajau) 南の指標
bintoeng bahi (babi) 西の指標
bintoeng tallu (tiga) 西〜北西の指標

地方語で名前の述べられている星が国際的な名称のどの星に該当しているのかについては
その地方の民話を知ることが鍵になる、とバンドン工科大学天文学名誉教授は語っている。
民間伝承や神話を知ることによって、星の名前が持っている背景を頼りに星の位置を推定
し、現代の国際名称に結び付けるのである。[ 続く ]