「世界を揺さぶったスパイス(27)」(2024年05月30日)

クローブの持っている刺激性のある風味と香りがハムのような肉加工品やカリー料理にと
っての調味料として使われてきた。また古くから医薬品としても使われ、クローブ油は歯
痛の治療薬になっていた。東インド産スパイスの中でかつてはこのクローブがもっとも高
価なものであり、ポルトガル人がクローブをヨーロッパに運び込むようになったころ、ク
ローブ1キログラムは黄金7グラムの価値を持っていた。

伝統的なスパイスとしてのクローブは花蕾だが、人間が利用できるクローブ木の産物はそ
の部分だけではない。木の葉も、枝も、花蕾を支えている茎も、人間が利用できる物を生
み出している。たとえば茎や葉や花自身からも揮発油が精製できる。クローブオイルと呼
ばれるこの揮発油は刺激・麻酔・殺菌・鎮痙などの性質を持つオイゲノールをたっぷり含
有しており、医薬品や化粧品製造業界の重要な製造原料のひとつになっている。

茎や葉からクローブオイルを作れば付加価値が激増する。そのオイルは人体の皮膚に塗る
油や薬品・石ケン・アロマセラピーのオイルやロウなどに使われ、また筆記用インク、印
刷用インク、靴墨、蚊よけ薬などにも使用されている。精製滓は燃料炭や肥料になる。飲
食品の製造に使われたり、生きている魚に麻酔をかける用途すら発見されている。


2017年5月にマキアン島を訪れたコンパス紙取材班を案内した地元民シャッリルさん
30歳は、キエブシ山腹を進む車の窓から地元民の農園を眺めながら、残念そうにつぶや
いた。かれは地面に落ちたクローブの葉が厚い層を作っているのを目にして口惜しさを表
したのだ。「あれも金になるというのに、どうしてほったらかしにしてるんだろう。」

クローブの葉や茎を精製して揮発油を作れば、医薬品・化粧品・飲食品産業に販売できる
ことをかれは言っているのだ。現実に、クローブオイル生産者がインドネシア国内にもい
る。しかしその精製方法について、詳しいことをかれは知らない。情報があまりにも少な
いのである。精製プロセスに使われる装置や器具の構造、作業の仕方、そしていざできた
製品をだれが買ってくれるのか?おまけにそれらの情報をどこのだれが教えてくれるのか
すら分からない。北マルクのクローブ農民たちは千年一日のごとくただクローブの花蕾を
摘み、茎や葉や枝を見捨てているだけ。

昨今、シャッリルのようなマルク人の若い世代がハルマヘラ島にクローブ農園を開き始め
た話が語られている。北マルク地方で生産されるクローブのほとんどはジャワ島のタバコ
産業界に送られている。テルナーテからスラバヤやジャカルタに向けて船積みされ、また
一部は北スラウェシのマナドやビトゥンを経由する。[ 続く ]